更新日: 2019.08.14 20:30
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第10回】ダブル入賞も、チームオーダー発令が決定。将来を左右する正念場で直面した課題と“プロセス”
レース中盤にケビンはいち早くドライタイヤに履き替えましたが、シャルル・ルクレール(フェラーリ)のコースアウトによりセーフティカーが出動した際、ドライタイヤでステイアウトしたいと提案してきました。
彼はまたここでも賭けに出たかったようですが、こういうサバイバルレースでは生き残ればポイントを獲得できますし、あの時はまだレースを半分も消化していなかったので、ギャンブルをする状況ではありませんでした。ですから、この時は先の反省もあり、僕は半ば強引に一旦インターミディエイトタイヤに戻すという判断を下しました。
話が前後しますが、フルウエットからインターに履き替えた最初のピットストップでは、前を走っていたロマンをまずピットへ入れました。2台同時のタイヤ交換はタイムロスが大きいというのが理由ですが、この時ルクレールのアンセーフリリースがありました。このせいでロマンは5つほどポジションを落としましたが、この件でフェラーリにはレース中のペナルティが科されることもなく5000ユーロ(約60万円)の罰金だけで済んだというのは、納得のいかない裁定です。
これはその後のハンガリーGPで行われた会議でも問題になり、この先同じことが起こった場合はレース中にタイムペナルティかドライブスルーペナルティを科すということで落ち着きました。しかし、これはまたレース運営の問題が浮き彫りにされた出来事でした。
そしてレース後半には、ケビンとロマンが3度目の同士討ちをしてしまいました。ロマンの方が1秒以上もペースが速いというのを、ケビンはエンジニアから聞いていたんですけれどね……。
ともかくこの接触をふまえて、僕とギュンター(シュタイナー/チーム代表)は、ハンガリーGP以降はチームオーダーを出すことを決め、「速い方のクルマが後ろから迫ってきて、追い抜きにかかった場合に、前のクルマはポジションを争ってはいけない」と伝えました。あの時もし後方から迫ってきたのがライバルチームのドライバーなら当然ポジションを守ろうとするべきですが、チームメイト相手にすべきことではありません(もちろん、選手権の1位や2位を争っている相手がチームメイトである場合はまったく別の話です)。
とはいえドイツではロマンが7位、ケビンが8位と、第5戦スペインGP以来となるダブル入賞を果たしました。今のチーム状況を考えると、ダブル入賞というプラス評価はかなり大きいですね。ふたり合わせて11回のピットストップを行いましたが、めまぐるしく状況が変わるなかで一度もミスをすることなく作業を終えられて、ピットクルーも喜んでいました。チームとしても結果が出たのでよかったです。
一方ハンガリーGPでは入賞を逃しましたが、ケビンはよくダニエル・リカルド(ルノー)を抑えて頑張ってくれました。リカルドの方がペースが良かったのですが、最後はよくやってくれたと思います。13位と入賞できなかったのは彼のせいではないですし、まだまだクルマを改善しなければいけません。
ロマンには水圧トラブルが起き、またレース中はハードタイヤに苦労しました。これはフリー走行2回目にハードタイヤを履いてしっかりと走れず、ここまで厳しいというのを事前に知ることができなかったからです。ただ彼以外にもマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)もハードタイヤで予定していた周回を走りきることができませんでしたし、あのタイヤは想定よりも上手く機能していなかったのだと思います。