更新日: 2019.08.27 15:41
佐藤琢磨が明かすF1の秘話。2009年にトロロッソがブルデーを起用した本当の理由
「忘れもしない、2009年の僕の誕生日(1月28日)のことですよ。(トロロッソのチーム代表である)フランツ・トストから電話がかかってきて、『Congratulation! Welcome in. You are my driver(おめでとう。歓迎するよ。君は僕のドライバーだ)』と言われたんです」
「しかし、その5時間後、トストからもう1度電話がかかってきた。『すまない、琢磨。オーストリアから電話がかかってきてね……』と言い出したんです。その直後、僕はそれまで握っていた携帯電話を壁に向かって投げつけていました」
琢磨ではなくブルデーが起用された本当の理由。それは実に意外なものだった。
この年、トロロッソは新人セバスチャン・ブエミとブルデーのふたりでシーズンを戦うのだが、レッドブルにとって本当に大切なのはジュニアドライバーのブエミであって、ブルデーは一種の“当て馬”。
そのブルデーの代わりに琢磨を起用する案が一時浮上したのだが、テストをしてみたところ、琢磨はブルデーはおろか、肝心のブエミより速かった。これではブエミの立場、ひいてはレッドブル育成プログラムにかかわる面々の立場がなくなる。そこで琢磨を諦めてブルデーを起用したのが本当の理由だったようなのだ。
こうしたエピソードからうかがわれるのは、琢磨のレース人生が様々な要素に翻弄され、何度も不幸のどん底に突き落とされたという事実である。
しかし、その一方で、本格的にレースデビューしてわずか5年目にF1ドライバーとして起用されて、2004年にはF1アメリカGPで3位表彰台に上がったり、2017年には奇跡ともいえるインディ500制覇を成し遂げた。いったい、佐藤琢磨というドライバーの人生は幸運だったのか、それとも不幸だったのか? 本人に訊ねてみた。
「いまだに走っているんだから、結果的には運がいいドライバーなんでしょうね。しかも、いまだ到達していない目標に向かって突っ走っている。でもね、いいことがあれば、それに見合うだけの苦労も降りかかってくる」
「それは、自分が犯した失敗もそうだけれど、自分の力ではどうにもならない理不尽なこともあったし、怒りや悲しみはたくさん味わった。けれども、サスペンションに使われるスプリングだって、縮むからこそ次に伸びる。人間の筋肉だって同じですよね。その振り幅が、僕の場合はおそらく大きかったんでしょうね」
***********
今回お届けした佐藤琢磨本人への1万字インタビューの他、アメリカンレジェンドであるマリオ・アンドレッティ、マイケル・アンドレッティ、A.J.フォイト、ボビー・レイホールの4人などへのインタビューも掲載。さらに、F1アメリカGPで表彰台に上がったときのマシンであるBAR Honda 006のマシンギャラリーもお届け。佐藤琢磨満載でお送りする『レーシングオンNo.502』は全国書店やインターネット通販サイトで発売中。
商品紹介はこちらから