更新日: 2019.12.27 19:51
【ホンダF1を語りつくす座談会(3)】レッドブルは年間5勝いける! スペック4の投入時期と後半戦に勝てるグランプリを大胆予想
──そのフェラーリですが、プレシーズンテストを終えた開幕前の段階ではかなり評価も高かったので、現状には驚きですね。
尾張:僕が考えるに、フェラーリはプレシーズンテストのときに新しいレギュレーション(ダウンフォースレベル削減)への答えを見つけたと思っていたはず。幅広になった今年仕様のフロントウイングは、ウイングの角度を立てると面積が増えて今までよりもフロントのダウンフォースが良くなっている。でもフェラーリはウイングに当たる風を外側に逃がす(アウトウォッシュ)ことで、その利点を捨ててしまっているんだよね。
というのも、レーキ(車高の前傾角)をつけて見えない壁のようなもので床下の空気の流れを守るという考えでマシンを作っているはずだから。フェラーリは去年までのダウンフォース量を維持できていると考えたんじゃないかな。
でもマシンのどこにダウンフォースの目標点を置くかでそれはガラリと変わる。メルセデスで言えば、テスト1回目に持ち込んだマシンと2回目に持ち込んだマシンはまったく違っていた。テストの1カ月くらい前にこのマシンではダメだということが判明して、急遽作り始めたマシンを2回目のテストに持ってきた。
──そうだったんですね。なんだかチャンピオンチームらしくない気もしますね……。
尾張:テスト1回目のマシンを改良して2回目に持ってきたのかと思っていたら、2回目のマシンはまったくの新車だった。なぜ1回目にまったく違うマシンを持ってきたのかというと、それはデータを取りたいから。特に今年はタイヤに関していろいろと変わっているから、まったく違うマシンだとわかっていても、実車での走行データが欲しかったんでしょう。
──なるほど。フェラーリとは方向性が全然異なりますね。一方で、毎年レッドブルの車体は評価の高いものですが、今年はどうでしょうか。
尾張:レッドブルは、フェラーリとは違うアウトウォッシュを作ろうと思っていた。ワシェたちは、フロントウイングでもダウンフォースを作り、レーキ角を付けた車体側でもダウンフォースを生み出す新しいコンセプトの車体を作っていた。
それとは別に、アウトウォッシュにはタイヤに当たる空気の乱流を無くす効果がある。タイヤに乱流が当たってしまうと、どうしてもタイヤの後ろ側に負圧ができてしまう。負圧は車体にとって抵抗となってしまうので、ドラッグが大きくなってしまいストレートスピードが落ちる。だから、アウトウォッシュはドラッグが大きいマシンのチームが利用したがる傾向にあるかな。
柴田:そういう技術的な面でも、フェラーリはメルセデスに負けている。今年思ったのは、マッティア・ビノット代表のリーダーシップがどうなのかな、と。あの人にはリーダーシップがないんじゃないかな……。
──もともとテクニカルディレクターでしたよね。
柴田:技術者としてはすごく良いエンジニアなんだと思う。ビノットはものすごく上昇志向の強い人だということを聞いたこともあるよ。
その望み通りにフェラーリのチーム代表になったのだけれども、いざチーム代表になると、前半戦ではドライバーのマネージメントができなかった。ベッテルとルクレールの扱いも中途半端で、うまくふたりを扱えていなかった。今となっては、フェラーリをトップに浮上させるための存在にはなっていないと思う。
尾張:フェラーリの歴史を振り返ると“技術屋は名監督にならず”というのはロス・ブラウンのときからそうだった。ビノットはブラウンに似ていて、テクニカルディレクターからチーム代表になったよね。
彼はフリー走行や予選でマシンの調子が良くないとピットガレージに行くじゃない? たとえばドイツの予選Q1でベッテルにトラブルが起きてしまったとき、マシンの後ろにビノットがいるのが交際映像に映っていたよね。チーム代表があんなことをしてはダメ! 野球だって、監督は試合中にマウンドには行かないからね。技術的な問題が起きてしまったら、担当エンジニアやメカニックに任せるべき。
柴田:(フェルナンド)アロンソが在籍していたときのフェラーリもそうなんだけれども、やっぱりジャン・トッド(現FIA会長)がいないフェラーリはダメなんだよね。
尾張:ジャン・トッドは絶対にガレージに行かなかった。ブラウンはガレージに行ったりするけれども、トッドはまず行かない。というよりトッドがドライバーに話を聞きに行っている状況があってはいけないんだけれども(笑)。そういうことをしているビノットはダメ。
──フェラーリの苦戦はまだまだ続くでしょうか。となると、レッドブル・ホンダのランキング2位は現実味を帯びてくるような気もしますね。
尾張:ガスリー次第だと思う(座談会後にレッドブルはアレクサンダー・アルボンの昇格を発表、ガスリーはトロロッソ・ホンダへ)。コンストラクターズ選手権は、ドライバーひとりでは戦えないから。
座談会(4)に続く
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柴田久仁夫
静岡県出身。TVディレクターとして数々のテレビ番組を手がけた後、1987年よりF1ライターに転身。現在も各国のグランプリを飛びまわり、『autosport』をはじめ様々な媒体に寄稿している。趣味はトレイルランニングとワイン。
尾張正博
宮城県出身。1993年よりフリーランスのジャーナリストとしてF1の取材を開始。一度は現場からは離れたが、2002年から再びフリーランスの立場でF1を取材を行い、現在に至るまで毎年全レースを現地で取材している。