更新日: 2019.11.21 13:44
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第12回】「使えるものはすべて使った」大苦戦を覚悟のロシアでペナルティはね退け5戦ぶり入賞
ロシアではケビンが第11戦ドイツGP以来の入賞を果たしました。金曜日の走り出しから感触は悪くなかったので、土曜日はクルマの調整もごくわずかなものにしました。フリー走行3回目ではロマンが6番手、ケビンが10番手だったので、これなら中団勢のトップに立てるという手応えもありましたが、そういう意味ではケビンがQ2でミスをして14番手、ロマンが9番手というのは期待はずれな結果でした。
決勝レースではロマンが1周目にクラッシュしてしまい、彼はここでレースを終えました。このクラッシュでSCが出ましたが、ケビンはこのリスタートを上手くきめて(ニコ)ヒュルケンベルグの前に出ました。しかしその後はクルマのバランスが良くなくて、DRSが使えるようになってからはすぐに抜き返されてしまいました。いろいろと指示を出してバランスを調整して良くなりましたが、ヒュルケンベルグには徐々に差をつけられました。
ヒュルケンベルグにはついていけなかったものの、ケビンのペースはまあまあ良かったです。後方にトラフィックがあったこともあって、最初のスティントを伸ばすことにしました。先にピットインしたヒュルケンベルグは案の定トラフィックに引っかかっていましたし、前を走っていたペレスなども先にタイヤ交換を行いましたが、ケビンのレースには影響ありませんでした。ラップタイムも安定していましたし、なんとか後続をクリアしようととにかく長めに走りました。
27周目に(セバスチャン)ベッテルがコース上でストップしてバーチャルセーフティカー(VSC)が出たので、迷わずケビンをピットに入れ、(ランド)ノリスよりも前でコースに戻ることができました。その後、今度はすぐにラッセルがコース上で止まりSCが導入されました。再スタートは上手くいき、その後のペースは前を走っていた(カルロス)サインツJr.よりも良かったと思います。
この段階で一番懸念していたのは、後方から走ってきた(アレクサンダー)アルボンでした。レッドブルとは勝負にならないので、ケビンにはアルボンとは戦わずに先に行かせろという指示を出そうかと思ったのですが、アルボンはまだ若手でミスもあるので、プレッシャーをかければ勝負できるのではないかとも考えました(レース後に話してわかったのですが、ケビンもまったく同じように考えていたようです)。
これが結果的には間違った判断となってしまいました。アルボンと争う前のケビンはサインツJr.のすぐ後ろを走っており、後ろのペレスには4秒ほどの差をつけていたんです。しかしアルボンとバトルをしているうちにサインツには離され、逆に後ろにいたペレスの目の前まで後退してしまいました。
アルボンに抜かれた後、ペレスとバトルをしていた際に2コーナーでミスをして抜かれ、さらに5秒のタイムペナルティを科されてしまい、最終的にはペナルティのせいでノリスにも先行されてポジションを3つ落とすことになりました。
ペナルティが出た際、ケビンのエンジニアは「ペナルティのことを伝えると(ケビンが)怒ってリズムが狂うから、言わないほうがいいのではないか」と提案してきたのですが、当然ながら僕はペナルティが出たことを伝えさせました。ペナルティが出た時点では、そのままの位置関係でレースを終えて5秒加算されると(ランス)ストロールよりも後ろの11位になってしまう位置にいたからです。
だからケビンにはペナルティのことを伝えて、残りの5周をすべて予選ラップのように走ってくれと指示しました。ノリスには勝てないかもしれないけれど、入賞のためにもやるしかないという状況でした。
その結果ケビンはすごくよく走ってくれて、実質11位だったポジションを9位まで取り戻しました。現状では毎戦ポイントを争えるわけではないので、この時はエンジンから何から使えるものはすべて使いました。ミスもありましたが、よく挽回したと思います。
次戦はいよいよ日本GPですが、鈴鹿では新しいパーツを投入する予定です。ロシアでは手元にあるパーツでこれまでとは違うコンビネーションを試して、性能への影響をみるテストを行いました。シンガポールでロマンのクルマの仕様を変えたのも、ロシアでやることを一部先取りしたようなかたちです。また日本GPの次のメキシコでも新しいものを入れる予定です。
クルマ的にも次の鈴鹿は悪くないと思っています。シケインとヘアピンは相性がいいとは言えませんが、セクター1は良いタイムで走ることができるのではないかと思います。ただ日本GPで使うタイヤは一番硬いC1〜C3なので、これをどう機能させるかというのが重要になります。
また台風も迫ってきているようなので、予選やレースが天候に左右されるかもしれません。もし、荒れればチャンスは広がるのでしっかりものにしたいと思います。
もちろん僕は鈴鹿が大好きですし、日本のファンの方々もレースを楽しみにしていると思います。チームのみんなも、子供たちが毎年木曜にピットレーンに来てくれるのをとても楽しみにしています。1年で1番楽しみにしているレースです!