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投稿日: 2019.10.10 06:52
更新日: 2019.10.10 10:01

《ホンダF1田辺TDインタビュー2》第二期と現在の違い。PUの信頼性を劇的に向上できたオールホンダの開発背景とレース哲学


F1 | 《ホンダF1田辺TDインタビュー2》第二期と現在の違い。PUの信頼性を劇的に向上できたオールホンダの開発背景とレース哲学

──その考え方やこれまでの経験を、田辺TDがベンチやダイナモでスタッフに伝えている。

「私も先輩方から『ここオイルこぼれてるじゃねえか』と厳しく言われましたし、最近はあまりSakuraに行けていないんですけど、たまに行って見つけたときには、きれいにしようと思っています。あとはやはり開発側と二人三脚で進めているなか、ダイナモ側で経験してきた人たちが過去の経験も入れて評価する項目を作って『これでOKです』という形でデータのレポートが出てくるんですけど、私が実走での経験を踏まえて『こういう形で見たの?』『本当にここは大丈夫なの?』とかを伝えて、それでまた答えをもらって、お互い納得して『これならいけるよね』と。おそらく、部下には小うるさいやつだなと思われていると思うんですけど(苦笑)、お互いに納得するまでやりましょうという形で進めています」

──部下にとっては大変でしょうが(笑)、その細かな気配りやコミュニケーションの仕方が信頼性の高さにつながった。今年、チーム側は当初からホンダにパワーを求めていることを公言していた。でも、その状況のなかで田辺TDの言葉は「まずは信頼性の確保」でした。そこで周囲の意見にブレずに開発を続けてきたのは田辺TDの信念とも言える。

「まだ完璧に出来ているかというと、また話は違いますけど、今日(ロシアGP金曜)のように、たとえば車体側のトラブルが出て、走行時間を失ってしまいうこともある。そこで、金曜の走行時間が失われたことで、ゆくゆく決勝日のレースに向けて当然、車体側、PU側の詰めの部分でボディブローのようにいろいろと響いてくる。そして1年間通すと、その走行機会を失うことがいろいろなところで少しずつつ積み重なってくる」

──その考え方は田辺TD個人のレース哲学ですよね。

「いえ、基本的にはホンダのレース哲学だと思っているので、私はその考え方は伝えるようにしています。浅木もそういう部分は非常に嗅覚が鋭いので『本当にこれは大丈夫?』とか、私としては研究所と浅木と二人三脚のなかで、そこに私の実走の観点、過去の経験の部分などを入れて、浅木と研究所のエンジニアと協議して進めていくという形ですね。私の役割としては現場に入って、現場を引っ張る。そしてSakura研究所としっかりコミュニケーションを取る。ひずみを生まないことです」

──その考え方自体が開発者というより、レース屋ですね。いいものを作って渡すだけではなくて、渡したあとも含めて、チームと連携してどのようにすればシーズンの最後に結果を出せるかを逆算して考える。

「それしかしてきていないので(笑)。とにかくベンチの開発経験があって、実走の経験が長い。実走の経験はあまり多くの人が経験できない部分でもあるので、そのノウハウなりを伝える。今はテストの実走テストも時間が限られていますし、台上のダイナモも、ものすごくレスポンスがいいし、いろいろな技術が進歩してシミュレーションで確認できます。実車環境を再現するような設備は進歩していますですけど、それでもやはりタイヤがあって、ギヤボックスがあって、上下動があって共振があって、そこにドライバーの操作が加わってとなると、まだまだ100パーセント実走と同じくシミュレーションできるかというとそうではない」

「そこで、シミュレーションでカバーできていない部分は何なんだろうなというところも、一緒にSakuraと協議しながら進めています。『この部分、見えていないから模擬テストみたいなことはできないの?』とか、『ここは心配だからきっちり抑えようよ』とかをフィードバックします。新しいものを持ってきてたときは、シーズンではレースウイークの練習走行の走行時間がとても重要になる。実際に走って、日本の開発状況と『ここが同じで、ここが違う』『どうして違うのか』というのをまた協議を始めて仕上げていく」

──なるほど。田辺TD以上に現在のF1の現場開発、レースにおける開発を任せられる人がいないと言われる理由が理解できた気がします。

「まだまだトップ2チームとは『戦って勝てる』というところには至っていないので、それはレッドブル・ホンダとして今回、どこまで行けるかなというレースに臨めるように、この先、まだまだやることはいっぱいあると思っています」

──それでも2004年、2006年以来ですかね、勝てるかもしれないという期待を持って鈴鹿を迎えられるというは、ファンとしても本当に嬉しいことです。その日本GP、いよいよ迎える母国GP鈴鹿の難しさ、期待をどのように感じていますか?

「とにかく鈴鹿は昔から我々ホンダ、ホンダのF1に関わる者にとってベースの場所であり、特別な場所です。今は世界中にホンダはありますけど、この日本GP、鈴鹿のレースを多くの従業員が応援してくれている。世界中にファンはいらっしゃいますけど、鈴鹿に来て頂いたファンはとても温かくて、かつ情熱的に我々を迎えてくれる。そういう部分も含めまして、気持ちの部分でも特別だと埋め込まれているというか、染まっています」

「鈴鹿のサーキットの難しさの部分で言いますと、PUとしてはドライバビリティ、S字でアクセルを踏んだり戻したり、ヘアピンの立ち上がりできちんと下からトルクがついてこないといけないなど課題も多い。そういう部分でドライバーが気持ちよく走れるように、ドライバーズサーキットと言われるように非常にテクニカルで、ドライバーが楽しんで走れるよう、その楽しみを壊さないよう気持ちよく走れるようにPUを仕上げたいと思っています。期待が高いというのは当然、その高さの正反対にプレッシャーの高さにもなるんですけど(苦笑)、やれるだけの準備をして向かうしかないと思っています」

(おわり)

ホンダF1田辺豊治テクニカルディレクター
ホンダF1第二期にはベルガーの担当エンジニア、そして佐藤琢磨のインディ500制覇を支えて2018年にF1でテクニカルディレクターに就任した田辺豊治氏


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