──エストリルでタイトルを確定させるはずでした。しかし、ビルヌーブに優勝をさらわれ、次の鈴鹿に持ち越しになってしまいました。
「大勢の人がわざわざポルトガルまで足を運んでくれたんだ。ミック・ジャガーとかジェリー・ホール、そのほかにもたくさん。バーニー(エクレストン)も、ここで決めようと言ってくれたし。でも決めることができなかった」
「あのレースは、ジャックがとにかくすごかった。彼が加入してすぐの頃に、エストリルの最終コーナーはアウトサイドから抜けるか、と聞かれたことがあるんだ。『オマエ、どうかしてる、F1だぞ』って皆でバカにしたりしてね」
「私は特等席で見ていたから、誓ってもいい。ジャックはやったんだ、それを。しかも相手はミハエルだよ。開いた口が塞がらなかったね」
──鈴鹿の週末はどうでした?
「3週間のインターバルがあったので自宅に戻り、自主トレに専念した。その頃は少し気が変になっていて、完全なオーバートレーニング状態だ。早めに香港に向けて発ったのは、時差ボケを和らげたいという意味もあった。ジョージーも一緒に来てくれて、彼女は父親が軍属で、子供の頃に香港で暮らしていたこともあるんだ」
「ふたりで丘の不に登ったら、岩肌にたくさん落書きが描かれている場所があって、その中のひとつに“Damon”と記されているのを見つけた。はるばる香港まで来て、自分の名前を発見したわけだ。偶然にしてはできすぎで、何かのお告げのような気がしたものさ。日本では眠れない夜が続いた」
「ジャックのホイールが外れるということがあって、それで私も任務を完遂することができたんだ」
──ビルヌーブがリタイアした後、集中力を保つのが大変だったんじゃないですか? タイトルはもう手に入ったわけだし。
「もうピットに戻っていいか、と無線で軽口を叩いたら、ダメだ最後まで続けろと言われてね」
「むろんそれは冗談で、シーズン最後のレースを優勝で締め括るほど痛快なことはない。ジャックがおめでとうと言いにきてくれて、ふたりで夕食を共にした。本当にいいやつなんだ。それから皆で鈴鹿のログキャビンに繰り出すと、ミハエルがいて、彼からも祝福を受けた」
「たまたまイギリス人が多かったので調子に乗って、ドイツ人はああだこうだとからかってしまったんだけど、ちょっとやりすぎたかもしれない」
──今こうして振り返ってみて、FW18は自分がドライブした中でベストカーだと思いますか?
「“ベスト”と評されるようなクルマはどれもファンタスティックで、なおかつエキサイティングだ。しかし、FW18はそんな中でも珠玉の一台と言っていいと思う」
「少しも複雑じゃないところがこのクルマの最大の美徳さ。ドリンクボタンがあって、無線があって、ニュートラルボタン、シフトアップ、シフトダウン……。素晴らしい時間を過ごさせてもらったよ」

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お届けしたデイモン・ヒルの他、チームメイトのジャック・ビルヌーブ、重鎮パトリック・ヘッドらに加え、今回の目玉はデザイナーのエイドリアン・ニューウェイ独占インタビュー。これまでなかなかメディアに対して自らのクルマについて語ってこなかった彼のインタビューは一読の価値あり。
その他、両ドライバーを担当した若きレースエンジニアたち、ジョック・クレアやティム・プレストン、ルノーV10サイドからはベルナール・デュド、ドゥニ・シュブリエらの貴重な声も収録。恒例のバリエーション、ディテールファイルといったマシンの魅力をお伝えする企画も満載!
これまで明かされてこなかったFW18の真実が見えてくる『GP Car Story Vol.29 Williams FW18』は、全国書店やインターネット通販サイトで10月9日より好評発売中。
