──MP4/8はどんなクルマでしたか?
ハッキネン:素晴らしいクルマだった。その点に疑問の余地はない。ただ、限界まで攻め込むと、高速コーナーでも低速コーナーでも中速コーナーでも、ハンドリングの重大な欠点が表面化した。
トラクションコントロールやアクティブサスペンションがあって、一時はオートマチックギヤボックスも搭載されていたが、その一方でいくつかの問題も抱えていたんだ。前向きな姿勢を忘れず、ノンストップで開発を続けても、どうしても私が望んだレベルまで仕上げることはできなかった。
その問題が未解決だったために、完璧に仕上がったクルマと比べると、ひとつのコーナーで0.1秒くらいは失っていたかもしれない。どんなコーナーでも遅いのだから、原因は私のドライビングでもなければ、アクティブサスペンションや空力のセットアップの問題でもなかった。
──アクティブサスペンションのセットアップは難しかったのでしょうか?
ハッキネン:いや、あのアクティブは複雑なものではなかった。ただ単純にクルマの何かが間違っていたんだ。私としては、あのクルマは空力面に難があって、本来のパフォーマンスを引き出せなかったように感じている。
もちろん、使っていたエンジンのパワーを考えると、ダウンフォースを削らざるを得なかったのは確かで、それも問題のひとつではあった。
──フォードHBエンジンは、あなたがロータス時代に使ったのとおなじタイプでしたね。
ハッキネン:そのとおり。とてもいいエンジンだったけど、相手がルノーとなると、まるで勝ち目はなかった。
──ランボルギーニエンジンのテストカーは、どんな印象でしたか?
ハッキネン:信じられなかったよ。狂ったように高回転まで吹け上がり、悲鳴のような音を発して、すごくパワフルなんだ。ただ、パワーがあるエンジンには大きな冷却系が必要だったり、燃費が悪かったり、大量にオイルを食ったりといった弱点があるものだ。
実際、そういうエンジンはたくさんあった。あのエンジンはとても軽くて、その部分ではランボルギーニがいい仕事をしていたけど、前後方向に長いのが難点だった。それでもパワーがあるから、燃料が満タンでも強烈に加速した。コスワースのエンジンは、満タンにするとストレートでの加速がどうしようもなく遅かったんだ。
いまだによく覚えているが、ランボルギーニエンジンのクルマは、燃料が重い状態でべケッツを抜けるときにもはっきりと加速Gを感じて、こいつはスゴいぞと思った。そして、その先のハンガーストレートで、派手にブローアップしたんだ(笑)。
──振り返ってみて、MP4/8というクルマは、あなたにとっていい思い出と言えますか?
ハッキネン:本当にいいクルマだった。それは間違いないよ。ただ、シャシーのバランスにちょっとした問題があって、イライラさせられることもあった。あのクルマでは相当な距離を走り込んだ。
そして、問題を解消するために、テスト走行の後には夜遅くまで話し合い、バラストの位置や燃料タンクの構造を変えて、重量配分を調整したりした。
いまになって思うと、空力を根本的に見直せば、違う結果が得られたかもしれない。ともあれ、私が多くの情熱を注いだ、思い出深いクルマであることは確かだね。
※ ※ ※ ※ ※ ※
お届けしたミカ・ハッキネンへのインタビューのほか、マイケル・アンドレッティやアイルトン・セナの再録インタビューなども掲載。
また、ニール・オートレイ筆頭にアンリ・デュラン、パット・フライ、パディ・ロウといった技術陣のインタビューも収録している。レギュレーション的に大きな縛りがなく、技術者たちのやりたいことができた時代に、彼らがいかに楽しんで開発していたのかが、インタビューから感じ取れるだろう。
そして、選手権的には敗者であるはずにもかかわらず、全員が口をそろえてMP4/8を誇りに思っていることに、このクルマがマクラーレンの歴史のなかでもいかに“優秀”であったかを再確認できるはずだ。
『GP Car Story Vol.30 McLaren MP4/8』は全国書店やインターネット通販サイトで発売中。
