ヒュルケンベルグは出走177回でポールポジションを1回、フロントロウ2回、そしてファステストラップも2回記録しているが、177戦出走して、一度も表彰台に上がることなかった。この記録はF1史上最多となる、ある意味、不名誉なものなのだが、そのヒュルケンベルグが最も表彰台に近いレースだったと語るのが、2012年のブラジルGPだ。
このレースは雨がらみとなり、途中雨用のタイヤに交換する中、ドライタイヤで走り続けたジェンソン・バトンとヒュルケンベルグの2台がライバル勢を大きく引き離し、19周目にはヒュルケンベルグがバトンをかわしてトップに浮上するという展開となったのだ。
その後、3番手のハミルトンが31周目にバトンを抜き、49周目にはヒュルケンベルグもかわしてトップに浮上。しかし、ヒュルケンベルグは55周目の1コーナーでペースが上がらないハミルトンに再び接近する。ここでヒュルケンベルグは迷わず、ハミルトンのインに飛び込みトップ再浮上を狙ったが、走行ライン以外はまだ濡れていたためマシンを滑らせてハミルトンと衝突。ヒュルケンベルグはレースを続行できたが、ドライブスルーペナルティを科せられ、優勝だけでなく、表彰台も逃した。
あのとき、ハミルトンと衝突していなければ、ヒュルケンベルグの表彰台は確実だったと、当時所属していたエンジニアは語る。しかし、ヒュルケンベルグは接触したハミルトンに恨みはないし、自分が行ったレースに悔いはないと言う。
「『抜ける』と思ったときに、オーバーテイクができないようなら、レースなんかやめたほうがいい。もちろん、一勝もできず、表彰台にも上がれないままF1を去ることに満足はしていない。でも、僕は自分のレース人生を後悔はしていない」
握手を求めてきたハミルトンに、快く応じたヒュルケンベルグ。その笑顔には、7年前のオーバーテイクを後悔している様子は微塵も感じられなかった。
