更新日: 2020.01.08 18:28
F1技術解説レビュー メルセデス:オフシーズンテストから積極的にアップデート。酷暑レース以外で驚異的な強さを発揮
第9戦オーストリアGPは高い標高に加え、例外的な酷暑にも苦しめられた。しかしW10の冷却性能に問題があることは、すでに冬のテストの段階からメルセデスのエンジニアたちは承知していた。設計段階での計算ミスによって、必要以上にラジエターの容量が小さかったのである。そしてそのミスはサーキットで実走するまで、明らかにならなかった。
しかしケガの功名というべきか、冷却があまり重要ではないサーキットでのメルセデスは、とんでもない強さを発揮した。一方で第2戦バーレーンGPやオーストリアGPなど、暑い開催地での週末は戦闘力が一気に落ちた。当初は空気の流量を増やす工夫をしていた開発陣だったが、最後にはラジエター自体の容量を大きくする必要に迫られた。
その仕様が投入されたのが、第11戦ドイツGPだった。ここではサイドポンツーンの形状変化だけでなく、さらなるダウンフォース獲得のためにフロントウイングにも改良が加えられた。フェラーリやアルファロメオほどではないが、ウイングの翼端をかなり下げてきたのである。
しかしその後のメルセデスは、期待したような大幅な性能向上は果たせなかった。夏休み明け以降、フェラーリが完全復活して勝利を重ねても、第17戦日本GPまで大きなアップデートは見送られたのである。「2020年以降の開発を優先させる」というのが、トト・ウォルフ代表の公式コメントだった。
とはいえ鈴鹿に投入された大幅アップデートは、ホッケンハイムからの順調な進化を伺わせた。フロントウイング翼端板、前輪のブレーキダクト、サイドポンツーン周辺、そしてバージボードと、変更は多岐にわたった。そして終盤5戦中4勝と、王者の強さを見せつけた。
下記表でも明らかなように、メルセデスW10はシーズンを通じて最速だった。もちろんタイトル独占には、車体だけでなくパワーユニット(PU/エンジン)も大きく貢献した。ただし2019年シーズンのメルセデス製PUは、かつてのような予選での絶対的な速さは影を潜めた。しかしその代わりレースでは、ライバルたちをはるかにしのぐアグレッシブな使い方が可能だった。これは高い信頼性もさることながら、燃費マネージメントの巧みさに負うところが大きいと考えられる。
各チームのマシン | 最速マシンからの平均速度差 | 1周(80秒換算)辺りの差 | |
---|---|---|---|
1 | メルセデスW10 | +0.17% | +0.13秒 |
2 | フェラーリSF90 | +0.33% | +0.25秒 |
3 | レッドブル・ホンダRB15 | +0.65% | +0.49秒 |
4 | マクラーレンMCL34 | +1.66% | +1.24秒 |
5 | ルノーRS19 | +1.91% | +1.43秒 |
6 | ハースVF-19 | +2.13% | +1.59秒 |
7 | トロロッソ・ホンダSTR14 | +2.15% | +1.61秒 |
8 | アルファロメオC38 | +2.21% | +1.66秒 |
9 | レーシングポイントRP19 | +2.38% | +1.78秒 |
10 | ウイリアムズFW42 | +4.3% | +3.22秒 |
・メルセデスW10、2019年シーズン中のアップデート一覧
1)第2戦バーレーンGP=リヤウイング
2)第3戦中国GP、第4戦アゼルバイジャンGP=フロント、リヤウイング
3)第5戦スペインGP=フロントウイング、バージボード、バージパネル、リヤビューミラー
4)第7戦カナダGP=パワーユニット
5)第11戦ドイツGP=フロントウイング、前輪ブレーキダクト、バージボード、サイドポンツーン周りのデフレクター、フロア、リヤウイング
6)第12戦ハンガリーGP=パワーユニット
7)第14戦イタリアGP=リヤウイング
8)第15戦シンガポールGP=アンチダイブダンパー
9)第17戦日本GP=フロントウイング、フロントブレーキ、バージパネル、サイドポンツーン周りのデフレクター、バージボード
10)第21戦アブダビGP=フロントウイング