水曜にマクラーレンのスタッフがコロナウイルス新型肺炎の症状を訴えたため、ガイダンスに従って自己隔離と検査を行い、チームは陽性と判断された場合に備えて話し合いを進めていた。
そして木曜の朝になって、FIAとFOMは感染予防のためドライバーと取材陣の距離を置くことをチームに要請し、あらゆるテレビインタビュー取材は中止となりF1TVが代表して各ドライバーのインタビューを収録し、各テレビ局に提供することとなった。
ジャーナリストの囲み取材も、普段のようなテーブルを囲んでのものではなく、原則として屋外で、テンサバリアで境界線を引き距離を置いて囲む記者会見のようなスタイルで行われることとなった。各チームとしても、このあたりからいよいよコロナウイルス対策に本腰を入れ始めたような状況だった。
しかしオーストラリアGP開催の可否については賛否様々な意見があったものの、それを決めるのは主催者AGPCとFIAであり、チーム側もしくはドライバー側から決定を下すことはできないというのがこの時点での各チームの認識だった。そして、AGPCは開催権料やチケット返金などの観点から中止は考慮せず、あくまでも開催を貫き通す意向だった。
だが木曜夜22時にマクラーレンが陽性結果とオーストラリアGPからの撤退を表明すると、FIAはF1ドライバーや首脳陣が宿泊しているメルボルン市内のクラウンホテルにマクラーレン以外の9チームの代表を集め、当初は開催への賛成と反対で意見が分かれたものの、最終的には反対という意見で合意に至った。そのため金曜未明のこの時点で、仮にAGPCがイベントの続行を決めたとしても、F1のフリー走行や予選・決勝は行われないという状態になっていた。
だがAGPCは金曜朝になってもまだ中止の決定は下さず、イベントとしての成立を目指していた。チケット返金だけでも莫大な損失になるからだ。