実を言うと、僕はホンダの第三期F1活動開始にはあまり胸がときめかなかった。当時、僕は無限ホンダ・エンジンを搭載してテスト走行を始めた童夢F1の密着取材をしていて、勝手にいろいろな未来を夢想していたからなおさらなのだろうが、第三期F1活動のスタートはなんだか非常にグダグダして見えた。きっと見えないところで何やら事情が絡まり合っているのだろうなとは類推したけれど、今回、その理由にもなんとなく想像がついた。
思えばホンダは世界的巨大企業になっていたし、F1グランプリも僕に言わせれば肥大化して変質してしまっていたから、子供だった僕が憧れたホンダとF1の関係ではなくなってしまっていたのだろう。
もちろん第三期で重ねられた努力に対しては心からの敬意を覚えるし、現在進行中の第四期も遠まきながら応援しているけれど、ホンダとF1に、あるいはこの僕にも、また違った歴史があり得たのかなあと遠い目になってしまうのも事実ではある。
モーターレーシングにはリアルタイムでは知り得ない舞台裏がつねに存在することくらい、長年この商売をしていると思い知っている。だが25年も経つといろんな真相が明らかになる。年老いてあらゆることに鈍感になってしまったこの僕が今回は結構オロオロしたのは、取材を通して25年をまたぐ壮大なF1物語を堪能したからなのかもしれない。これはまあ、役得というやつだが、本誌読者にその感動がうまく伝わったらとてもうれしい。


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毎号1台のマシンを特集し、そのマシンが織り成すさまざまなエピソードを紹介するGP Car Story。最新刊のVol.31では、ジョーダン199を特集。その過程で当時、無限ホンダ・エンジンの設計者で現M-TEC社長 橋本朋幸氏と、無限ホンダF1の顔であった坂井典次氏にインタビューを行い、無限ホンダF1プロジェクトの内容に迫っている。『GP Car Story Vol.31 Jordan 199』は全国書店やインターネット通販サイトで発売中だ。
