更新日: 2020.07.08 08:10
【中野信治のF1分析第1戦】予選で攻めきれないフェルスタッペン。アルボンとハミルトン接触のドライバー心理
決勝レースですが、ドライバーにとっては待ちに待った開幕戦だったので、それまで溜まっていたものを爆発させたかのようにアグレッシブでしたよね(苦笑)。レースを見ている側としても、あれだけアグレッシブに攻めてくれると気持ちがいいですよね。
ただ、開幕戦ということもあってマシントラブルが多かったのは残念ですけど、それまで走行機会が少なかったことで起こるべくして起きたということも含めて、開幕戦らしい展開でした。
見ている側、応援しているチームにトラブルが起きてしまうともちろん残念ですけど、レース全体の流れとしては、開幕戦のレースはいろいろなことが起こり得るということを改めて考えさせられました。レースはやはり速さだけでは結果は出ませんし、どんなに前評判が高くても決勝で走り出してみないと分からない。
決勝ではペナルティやセーフティカーなどいろいろあったなかで結果的にメルセデスが2台とも速かったわけですが、レッドブル・ホンダにも勝てるチャンス、可能性は十分にあったと思っています。
予選ではフェルスタッペンよりコンマ5秒以上もメルセデスが速かったので、決勝でもメルセデスのワンサイドゲームになるのかなと思いましたが、レースが始まって序盤戦を見ると2番手でミディアムタイヤのフェスルタッペンがトップのソフトタイヤのバルテリ・ボッタス(メルセデス)にコンマ3秒差で付いて行けていた。燃料が重い時のレッドブルのクルマのバランスはそれほど悪くないのかなというのは見て取れましたし、意外とレースでは戦えるのかなと思いました。
ですので、あのトラブル(11周目に電気系トラブルでリタイア)がなければフェルスタッペンにもレース終盤にチャンスがあったかもしれないですよね。そう考えると見ている側には期待を持たせてくれた序盤でしたし、次の2戦目にも楽しみがあります。
レース終盤のアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)にもチャンスがありました。ルイス・ハミルトン(メルセデス)との接触については(セーフティカー明けの61周目のターン4で2番手ハミルトンとアウトから抜きに行ったアルボンが接触。アルボンがスピンし、ハミルトンは2番手をキープするも5秒追加のペナルティ)、いろいろな見方があると思います。
アウトからオーバーテイクに行ったアルボンが前に出ていたこともあるので、結果的にハミルトンがペナルティを受けることになりました。ハミルトンも避けようと思えば避けれたと思いますが、あのターン4の右コーナーは僕も走ったことがあるのでよく知っているんですけど、映像で見るよりもすごくタイトなコーナーなんです。
下りながらの右コーナーで出口のコース幅もタイトなので、よほどイン側のクルマがジェントルに完全にスピードを落としてラインを譲らないと、アウト側からマシンが抜くのは本当に難しいコーナーなんですよね。
そこで言い方が難しいですが(苦笑)、アルボンとしては相手がハミルトンで、アルボンとしては「俺が前に出ているし、相手が譲るべき」と主張するのはもっともだと思いますし、ハミルトンもレース後のインタビューで答えていたように「レーシングインシデント(ペナルティにはならない出来事)」を主張するのも、コースの特性を知っている僕からすれば一理あると思います。
あの2番手、3番手を争っている状況で、あのタイトな4コーナーでラインをそこまではっきりと譲るというのは、なかなか難しい。コーナーで外側からオーバーテイクに行くというのは、そもそもリスキーですし、さらにその相手がハミルトンだったならば、僕ならもう1周待って、次のストレートエンドのターン3で抜くとか、DRS(ドラッグ・リダクション・システム/後ろのマシンのリヤウイングが可変して直線速度がアップするシステム)が使えるようになった段階で抜くとか、タラレバですけどいろんな角度から、いろいろな見方ができると思いますが、より確実に抜くにはもう少し待った方がよかったのかなと思います。
もちろん、アルボン側としてはグリップが残っているのソフトタイヤに代えていて、前のメルセデス2台は周回を重ねたハードタイヤを装着していた状況なので、セーフティカー明け(スロー走行でタイヤが冷えた状況)のあの61周にタイヤのウォームアップに優れているソフトタイヤの優位性を最大限に使うために、早い段階でオーバーテイクしたかったというのもすごくわかります。
あの段階でアルボンのソフトタイヤのアドバンテージは絶対的にあったと思うので、もうちょっと待ってもハミルトンは抜けたと思いますし、もしかしたらその先のトップのボッタスも抜いて勝てたかなと思います。もちろん、そこで待ったことで、メルセデス2台のハードタイヤが温まる時間ができてオーバーテイクができなくなるかもしれないという見方もあるし、あの状況での判断は本当に紙一重だったと思います。
結果としてハミルトンがペナルティを受けて、ハミルトンが悪いとレーススチュワードは判断したわけですが、アルボンのレースとしても勝つチャンスを失って実質リタイヤとなりました。
そう考えると、やはりあのタイトなターン4でハミルトンを相手にアウト側からオーバーテイクに行くのがいかにリスキーなことなのか。ハミルトンが簡単にジェントルに譲るドライバーなのかということと、以前にもアルボンはハミルトンとコース上でいろいろあった関係ですから、もちろん正解はわかりませんが、非常に難しい判断だったと思います。
ちょっと遺恨は残ってしまいましたけど、見ている側としては今後もアルボンとハミルトンのライバル関係は見どころになりますし、やはりモータースポーツはこういった人間模様も魅力ですよね。もちろん接触を期待するわけではないですけど、ヘルメットをかぶっているドライバーのお互いの心境が透けて見えるような、そういう人間ドラマはもっともっとあっていいと思います。
メルセデスとレッドブル以外にも、マクラーレンやフェラーリなどいろいろと見どころが多かった開幕戦ですが、今回はこのあたりで、次回また、第2戦以降で触れられればと思います。
<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
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