ドライバーとしてはクルマの特性、セットアップの特性を考慮して、視覚では路面の水は分かりづらいのであとは路面の感触を感覚でラインを選びます。
アウト側のバンク角が高くて雨量が少なくなっているところや、イン側で近道した方が速いとか、アウト側を通ってコーナーのR(角度)を緩くした方が速く走れるとか、ドライのゴムが乗ったレコードライン上は、雨が降ったときはそのラバーグリップが滑りやすくなるので外して走ったり、路面状況、雨量によって本当にいろいろ走り方は変わってくるので、その都度、ドライバーはベストなラインを探りながらの走行になります。
そういった点で今回の予選を見て、オンボード映像がとにかく興味深かったですね。各ドライバー、それぞれ本当にいろいろな技を駆使してあの雨の中でマシンを走らせているというのが見えました。ご覧になられたみなさんも、いろいろな発見があったのではないでしょうか。
その個性とうまさが如実に出る雨の予選で、やはりマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)の走らせ方は絶妙でした。ホイールスピンを若干させながらも、ショートシフトにしてギヤを上げていくタイミングもそうですが、コーナーでクルマの向きを早く変えるのがフェルスタッペンはとにかくうまくて、そこで早くタテ方向でトラクションを掛けようとして、その運転の工夫の仕方はもうセンスとしか言いようがないですね。
ライン取りもフェルスタッペンは他のドライバーとは違いましたが、フェルスタッペンの瞬間的にリヤが出た(滑った)時の反応の早さ、あの感覚はちょっと他のドライバーとは別格でした。もちろん、ルイス(ハミルトン)も雨ではすごい部分がありましたし、このふたりはちょっと抜けていましたね。
結果的にフェルスタッペンは最後のアタックでスピンして2番手になりましたが、1.2秒差でポールポジションを獲得したハミルトンは、やはり彼のドライバーとしての能力の高さを見せつけましたよね。
予選Q3は後半になるにつれて雨が強くなっていくなか、普通のドライバーなら雨量が増えたらちょっと手堅く走るのですが、ハミルトンのすごいところは、路面で雨量の少ない部分を見極めながらどんどん攻めていくところです。そしてその最後のアタックは、あまりにも上手すぎました。
もちろんメルセデスのクルマの良さというのもありますが、そのクルマのパフォーマンスの高さを置いておいても、ハミルトンのクルマの限界を引き出すような走らせ方、ブレーキを踏むタイミング、ステアリングを切ってクルマの向きを変えるタイミングが、「このようにクルマを走らせたら速く走れます」という見本のようでした。
見本というと簡単なように聞こえるかもしれませんが、もちろん、ハミルトンのような走らせ方は、あの雨の中では簡単なことではありません。「これができたらすごいよな」という理想のドライビングを体現しているのが、ハミルトンの最後のアタックでした。
イメージとしてはコーナーに向けてスピードを止めてから曲げるようなところを、ハミルトンはブレーキを残しながらマシンの向きを変えてカートのようなイメージで乗る。あのような走らせ方は、おそらくフェルスタッペンがメルセデスのマシンに乗ってもできるでしょうが、今はハミルトンにしかできない。いずれにしても、あの雨の予選ではやはりこのふたりが抜けているなあというのがオンボード映像を見て思いましたし、タイム的にも驚かされましたね。

※後編:「決勝のミディアムタイヤで見えたメルセデスとレッドブルの差。ハミルトンの才能近い若手F1ドライバー。FIA-F2角田裕毅のポテンシャル」につづく
<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
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