更新日: 2020.07.16 06:41
【中野信治のF1分析第2戦後編】ハミルトンに酷似するノリスのスピード感覚。ワークス勢を襲うピンク・メルセデスの脅威
フェラーリは予選の雨でも速くなかったので、パワーユニットだけの問題ではないのかなと思います。雨で速かったらコーナリングは悪くない、車体側は悪くないというイメージを持てたのですが、ウエットの予選ではトラクションが全然なかったですし、ストレートスピードだけの問題ではないなと。開幕戦は(シャルル)ルクレールの巧さ、レース展開で2位まで持っていきましたが、雨の予選を見てちょっと心配になりましたね。
決勝の(セバスチャン)ベッテルとルクレールの接触も、本当に悪い時には悪いことが重なりますよね。あの接触もお互い行き場がほとんどなくて、ルクレールも空いているイン側にどうしても行ってしまうので、仕方がない接触とも言えます。あれだけ力のあるチームなのでシーズン中でもいろいろアップデートして修正してくると思いますが、流れが悪い時はこういうことが起こりやすいですね。
あと、今回のレースで僕が気になったのはマクラーレンの(ランド)ノリスです。ノリスは僕のイメージだとクルマの感じ方、クルマの動かし方がちょっとハミルトンに似ているんです。もちろんハミルトンはより完成されていて、ノリスはまだちょっと荒削りでタイヤをいじめやすい部分があるんですけど、クルマの向きの変え方とかスピード感覚は似ていて、ファイティングスピリットみたいなところも面白いですよね。
具体的には、コーナーに入る時のブレーキの残し方とステアリング切り込むタイミング、クルマの向きを変えてアクセルを踏むタイミングが独特で、僕が見ている限りハミルトンに似て若干、カートのようにマシンを動かすんです。チームメイトの(カルロス)サインツJr.と比べると、サインツJr.が四輪ドライバーの走りで、ノリスがカートドライバーのような走りのようなイメージです。
クルマの向きを変えるスピードがサインツJr.より早いイメージで、おそらくコーナリング速度はノリスの方が速いのではないでしょうか。ノリスは今後、ダウンフォースの大きいクルマ、より速いクルマになればなるほどいいタイムを出せるでしょうし、スピード感覚というかセンスのようなものを感じますので、まだまだこれから伸びると思います。今回の最終ラップでもオーバーテイクして順位を上げていましたし、その諦めない姿勢とかもすばらしいですよね。
最後にFIA-F2で初のポールポジション、そして2位表彰台を獲得した角田(裕毅)選手についてですが、ポールポジションからスタートしたレース1の雨の決勝はピットストップのアクシデントで2位のもったいない展開になりましたが、あのアクシデントがなくてもトップの(ロバート)シュワルツマンもいい走りをしていたので、優勝は五分のいい勝負だったかなと思います。
去年、角田選手がFIA-F3に参戦していた時に僕もベルギーとスペインのレースに行って、チームから走行データを見せてもらいました。去年は厳しいチームだったこともありますが、彼がクルマのポテンシャルを引き出すのが非常に上手いドライバーだということを知っていますので、今年FIA-F2にステップアップして速いクルマになっても、すぐに速く走れるだろうなというのは分かっていました。
今年、これからのレースも彼はトップコンテンダーとして走ると思いますし、普通にトップで戦えると思っています。結局、結果も大事ですけど、いかにクルマの限界を引き出して走れるかが重要ですので、その能力が高いドライバーはこれから先、どのサーキットに行っても速く走れると思います。
クルマの走らせ方に関しては彼の中で完成していると思いますので、あとはチームを作り上げていく能力とか、セットアップを外したときにそれをまとめいく能力とか、そういった部分が彼のなかに備わっていけば確実にいいところで戦い続けられると思います。
<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24