フェラーリがオーストリアで使ったパワーユニットが、オーストラリアGPへ持ち込まれたものとまったく同じ仕様だったことも指摘しておくべきだろう。他のマニュファクチャラー3社は、いずれもその間にパワーユニットのアップデートを行っている。
そして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に対応して行われたルール変更により、2021年シーズン終了までパワーユニットはほとんど開発ができなくなることを考えると、フェラーリが何のアップデートもしなかったのは意外だった。
しかし、これはCOVID-19の影響でイタリア北部全体が長期のロックダウンを強いられ開発ができなかったためで、この点に関してフェラーリは不運だったとしか言いようがない。

シャシーに関しても大きな問題を抱えていることは明らかだ。とくに、空力面の弱点はプレシーズンテストの段階から指摘されており、それがオーストリアで確認されたにすぎない。ビノットは、クルマのパフォーマンスが期待を下回っているという認識とその理由について率直に語っている。
「テストでサーキットを走り始めたクルマが、ファクトリーで予想されていたような空力性能を発揮しなかった。つまり、風洞と実車とのあいだで相関性に欠けていたのはたしかだ」
「まずは何が悪いのかを理解する必要があったが、オーストラリアからファクトリーに戻った直後にロックダウンが始まってしまい、そうした開発作業ができなかった。それが一番の問題だと理解している」
風洞、CFD、実車の相関性が低い状態でクルマを開発すると、概してパフォーマンスに重大な悪影響を及ぼす。昨年、ハースがシーズン中に持ち込んだアップグレードがどれも風洞では効果があったにもかかわらず、実車ではまるで機能しなかった理由もそこにある。
そして、ハースは独自のCFDを持っているが、風洞実験に関してはフェラーリの施設を利用している。
開幕前のテストが終わった時点で、すでにフェラーリは空力の実験データに誤りがあり、修正を要することに気づいていた。その修正は簡単な仕事ではなく、さらにはSF1000のボディワーク全体をデザインし直す必要もあった。
ところが、ファクトリーの閉鎖により新たな空力パーツの開発を進めることができず、結果として、彼らはメルボルンからほとんど何も変わっていないクルマを、オーストリアGPに持ち込むしかなかったのだ。
SF1000を競争力のあるマシンに仕上げるために、フェラーリがやるべきことは多い。新たに設けられたホモロゲーションルールにより、2021年も今年とほぼ同じクルマで戦うことも考え併せると、このタスクの成否はきわめて重要になる。
だが、少なくとも現時点では彼らがこのまま希望を持てないシーズンを送る可能性が高いと言わざるをえない。フェラーリのガレージで再び笑顔の花が咲くまでには、まだしばらく時間がかかりそうだ。
