Shinji Nakano まとめ:autosport web

 1回目のピットイン後のタイムで、レッドブル陣営としては『勝てる』という雰囲気になったと思います。そういった計算は、あのチームはものすごく早いですからね。それでフェルスタッペンは1回目のピットイン後は引っ張るだけ引っ張って、僕はこのままフィニッシュまで行くのかなと思いました。

 結構早い段階で、僕は1ストップで行くのかなと思っていました。そしてメルセデスの2台があまりにもタイヤがダメになってしまって、もう一度ピットに入るのがもう分かっていましたので、だったらフェルスタッペンはもう一度ピットに入っても、ガチで勝負できるという計算があって、リスクを犯さずに2回目のピットに入ったわけですよね。

 ですので、メルセデス勢がもし2ピット作戦だったら、自分たちは1ストップで行ってしまおう、という賭けに出たかもしれないです。リスクを負うか負わないかということですが、決勝レースでのメルセデスのペースを見て、リスクを負う必要はないということで2回目にピットインをした印象です。あのまま1ストップでも走り切れたかもしれないですけどね。メルセデスのレースペースも途中で速くなったりしていたので、そういったタイム差を見て戦略を考えられたという意味ではいろいろと見ごたえのあるレースでしたよね。

 今回のレッドブル・ホンダの勝ち方を見て、今後のレースでもメルセデスと勝負ができるかは正直わからないですけれど、むしろ第4戦を見る前は、僕は今回第5戦のような展開を予想していたんです(苦笑)。シルバーストンはエアロを結構使用して走るサーキットなので、レッドブルに合っていて、1戦目、2戦目のオーストリアよりもメルセデスとの差は縮まるだろうと思っていました。

 ですので、僕としてはシルバーストンではメルセデスとレッドブルが良い戦いをするぞ、と予想した矢先の第4戦での1秒差のあの感じだったので、『しまった! 外した』と思っていました(苦笑)。

 でもシルバーストンの2戦目となる第5戦では、僕が初めに予想していたとおりの展開になりました。昨年から見てきたとおりのレッドブルのイメージですが、今となっては『どっとが本当のレッドブル・ホンダのパフォーマンスなの?』といった感じです。日本から見ている側としては、レッドブル・ホンダが勝つのはすごく嬉しいことなんですけれど、ただ客観的には『あれっ!?』という感じで、今後の展開が余計にわからなくなりましたね。

 今回はフェルスタッペンとレッドブル・ホンダの印象が強烈でしたが、チームメイトのアレクサンダー・アルボンの追い上げを見ていてもクルマが良いということが見て取れました。アルボンは冷静に走っていれば、それなりに速く走れるドライバーだと思います。第4戦のフリー走行でクラッシュしてしまってから精神的に動揺があったのか、ミスも多かったですが、冷静に戦えばあれくらい(予選9番手から5位入賞)の走りはできると思います。

 でも、アルボンも「こんなにクルマが速いなんて驚いた」と言っていましたよね。それも正直なところだと思います。『何が起こったんだ?』というくらい先週とはマシンが違うフィーリングなのでしょうし、見ている側もそう感じました。この第5戦での急激な復調をレッドブルの力、ホンダの力と言ってしまえばそうかもしれませんが、アルボンにはこのままいい流れに乗ってほしいと思いますね。

 レッドブルとメルセデス以外で今回の第5戦で気になった部分としては、(ニコ)ヒュルケンベルグ(レーシング・ポイント)の予選3番手という結果が流石だと思いました。前戦の予選ではあたふたしていた部分が見えましたけど、今回はしっかりと落ち着いて予選をこなしていましたね。決勝に関しては最後のレースから間が空いているので、作戦も含めてうまく転がせていなかったなあという印象でした。でも実力のあるドライバーだということは見せてくれました。

 ただ、レースでレーシング・ポイントがあまり強くなかったというのも、やっぱりメルセデスと同じような問題を抱えていた可能性はありますよね。クルマの特性なのか、路面温度に対しての幅が狭いのか。メルセデス、そしてレーシング・ポイントは今シーズンのこれまでのレースを見ていると、どの路面・温度でも速いマシンという印象だったので、決勝では両チームともペースが上がらなかったのが意外でしたね。

 次戦の第6戦スペインGPはコースの特性がまた変わりますが、シルバーストンで速いマシンはバルセロナでも速いと思います。メルセデスもそうだし、レッドブル・ホンダもそうだとは思いますが、やはりストレートが長いですし、メルセデスが優勢でしょうね。

 次のスペインでは、今回のシルバーストン2連戦での『あれっ!?』という部分の答え合わせをするイメージですね。コース的にも低速から高速コーナーまでありますし、シルバーストンと比べると平均速度は少し下がりますが、若干シルバーストンと似たような速度域のコーナーもあります。そういった意味では、第3戦の低中速のハンガリーと比べると、メルセデスに近づけるのかなとは思います。

 スペインでも今回のレース同様にレッドブル・ホンダの速さが出せれば、今後のシーズンは面白いものになります。フェルスタッペンとメルセデスのチャンピオン争いも結構、面白い展開になってきますよね。

 あと、前回の週末はF1でレッドブル、そしてスーパーGTでも17号車KEIHIN NSX-GTでホンダが勝って、FIA-F2でも角田裕毅が勝って、国内外でホンダがいい結果を出すことができました。もちろん、本当はスーパーGTでは僕たちRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GTが勝ちたかったんですけれどね(結果は10位)。でも、国内だけでなく世界で戦うホンダが、僕たちに良いニュースを届けてくれるというのは嬉しいことですし、やっぱり日本人としても気持ちが上がります。

 ホンダが、というよりも日本のメーカーがこうして世界のトップで活躍してくれるということが、我々日本人にポジティブな力をもらえると思います。そういった意味で、レッドブル・ホンダのこの1勝はすごく意味のある、大きな1勝だったと思います。そして日本人の角田がF2で勝って、スーパーGTでも17号車が勝ってくれたので、僕としてはこの良い流れにあやかりたいという想いもあります(笑)。

 角田は前の2台が接触するというレース展開でしたが、冷静に見ていたと思います。あの位置いたことと、ずっとプッシュしていたことが大事ですね。角田は途中、敢えてペースを落として乱気流を避けました。そこでタイヤを整えて終盤に備えていたので、あれは本当に良くやったなと思いました。

 対するミック・シューマッハー(プレマ・レーシング)は、チームメイトの(ロバート)シュワルツマンを追いかけるために結構タイヤを使っていたので、角田に抜かれた後も追いきれなかった。頭脳戦で勝ちましたよね。シュワルツマンとシューマッハーがバトルしているときも、角田は間隔を若干開けて、後ろで見ていた感もありました。本当に冷静に戦っているなと思いました。

 今後、ああいうレース展開だとまたチャンスが来ます。いっぱいいっぱいで勝ちにいくということではなくて、冷静に周りを見れるのはなかなかだと思います。今年はF2を戦うドライバーは優秀な人が多いです。シュワルツマンにクリスチャン・ルンガー(ARTグランプリ)もすごく良いドライバーだと思います。今年のF2は粒ぞろいで、また楽しみなことがどんどんと出てきて僕も嬉しいです。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24

2020年スーパーGT Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTの中野信治監督
Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTの中野信治監督

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