フリー走行3回目の終盤にはケビンとオコンが接触しかける場面がありましたが、あの件は何があったのか明白ですし、ケビンが精神的に何か気にしているということもありません。
ちなみにあの時、オコンは担当のエンジニアから「後ろから走ってくるマグヌッセンはアタック中だ」と伝えられていましたが、実際はケビンはアタックしていませんでした。オコンの車載カメラの映像を見ると、ケビンが速いスピードで走り去っていかないのでアタックしていないというのは明らかなのですが、無線を聞いたオコンは、アタック中のアルファタウリ・ホンダを気にしていてミラーを見ていたのでケビンがすぐ前にいることに気づくのが遅れてしまいました。本当に不運なアクシデントでした。
ケビンもロマンも、そういったアクシデントやペナルティ、警告によって特に自信を失うということはないです。それよりも、今いちばんの問題はやはりクルマです。今回で言えば、金曜日と土曜日でクルマの挙動が変わってしまい、金曜日に積み上げたものを土曜日に発揮することができませんでした。そうなるとドライバーも不安になりますし、自信を持てません。常に安定した車をドライバーに与えられていないという点はチーム側の課題です。

次の3連戦では、新たにムジェロがカレンダーに加わりました。ロマンはF3に参戦していた時代にムジェロで走ったことがありますが、ケビンは走った経験がないので、ベルギーGPに行く前にシミュレーターで走ることになっています。
実は今年、新型コロナウイルスの影響でファクトリーをシャットダウンした際、財政的に厳しい状況だったのでシミュレーターの開発プログラムを一度止めなければいけませんでした。本当はオーストリアに行く前にもシミュレーターを使いたかったのですが、その時もできなかったので、シーズンが再開してからはまだ1回も使っていないんです。
ムジェロ以外にもニュルブルクリンク(アイフェルGP)、ポルティマオ(ポルトガルGP)やイモラ(エミリア・ロマーニャGP)が加わったので、新しいサーキットでのレースに向けて通常とは少し違った準備が必要になります。そのため、新サーキット用のプログラムを組んで、まずはやらなければならない最低限のレベルでシミュレータープログラムを再開することになりました。
フルで再開しないのは、今やっていることでいっぱいいっぱいだからです。ファクトリーで働いているスタッフにもレース前の準備や、レースの週末中、そしてレース後のデータ解析をしてもらっているので、そこにシミュレーターのプログラムが加わると何かを削る必要が出てきます。そうでないと、シミュレータープログラムができなかった間に進めていた普段のプログラムが滞ってしまうので、常にチームのスタッフの人数、キャパシティ、リソースを見ながら準備をしています。
当面は厳しいシーズンが続きますが、そんななか、新たなコンコルド協定に署名したということでスタッフはみなホッとしています。これから少なくとも5年間を見据えたプログラムを組んで、チーム力を底上げしていかなければいけません。来年からは予算が制約されるなかでのチャンピオンシップとなりますし、また新たなチームを作るような感じです。大きなチャレンジですが、しっかりと前進していきたいと思います。
