レース後、メルセデスのトト・ウォルフ代表は、そのときの状況を次のように説明した。
「(ハミルトンが)ピットエントリーへ向かおうとしていたとき、ストラテジストのひとりが無線で何か叫んでいたが、我々は混乱していた。また我々には(ピットエントリーが閉鎖されているという「×」という)サインは見えなかった。それで、ルイスのレースが台無しになった。悔しいが、受け止めなくてはいけない」
ウォルフはハミルトンとチームをかばったが、あの周にピットインしたのがハミルトンとアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)のふたりだったことを考えれば、これは不可抗力ではなく、明らかにハミルトンとチームのミスだったと言える。それは、2番手を走行していたカルロス・サインツ(マクラーレン)の無線を聞けば分かる。
マクラーレン:カルロス、いまはピットエントリーが閉鎖された。ピットエントリーは閉鎖されている
サインツ:OK。じゃ、だれも入れないっていうことだね
マクラーレン:本当はピットインしたいんだけど、いまはできない
サインツ:分かった、ステイアウトするよ。でも、本当に閉鎖されている? だってハミルトンがピットインしていったよ
マクラーレン:ステイアウトが正しい。ハミルトンはピットインしたようだが、入るべきじゃなかった
おそらくハミルトンが言っている「ライトなんてなかった」というのは、ピットロード、またはピットレーンの入口にある信号のことを示していると思われるが、そもそもそこには信号はない。
なぜなら、そこで赤信号を見せたところで、本コースに戻ることは不可能だからだ。ピット出口には信号はあるが、レース中、ピット入口側にはレース中は信号は常設されていない。もしかしたら、ハミルトンはフリー走行と予選時に抜き打ちで車重を計測することを知らせる車検用の信号と勘違いしているのかもしれない。


ピットエントリーの状況を示すライトは、前述のように最終コーナー、パラボリカの途中と出口の2カ所に設置していることは、木曜日に発行されたレースディレクターズ・イベント・ノートの「5-2」で説明しており(Race Directors’ Event Notes1/赤いアンダーライン部分)、そこにはイラスト(Race Directors’ Event Notes2)も添付されている。
ただし、そのライトはドライバーには見えるが、ピットからは見えない。なぜマクラーレンのピットはピット入口が閉鎖されていることを知り得たのか。それは、FIAのタイミングモニターの4ページ目に出されていたと、ウォルフは明かした。
「FIAのタイミングモニターの4ページ目にそれが表示されていた。しかし、あのとき我々はピットインすること、そして、そのときどちらのタイヤを履くべきかに集中していたんだ」
つまり、今回の一件はハミルトンとメルセデスが二重に犯した、あってはならないミスだった。
