Shinji Nakano /まとめ:autosport web

 レースに話を戻しますと、決勝では2位に入ったマクラーレンのカルロス・サインツJr.もよいパフォーマンスを見せていましたが、やっぱりガスリーに流れや後押しがありました。サインツとマクラーレンにも頑張ってほしかったですが、ガスリーのストーリーというか流れができあがっていました。これは、みんながガスリーを後押しして力になって、なんとかトップを守りきったという感じですよね。

 また、今回のイタリアGPはエンジンのマッピングが予選と決勝で固定されました。いわゆる予選モードが使用できなくなり、決勝でも燃費の調整ができなくなったわけですが、その影響かどうかは分からないですが、レッドブル・ホンダとしてはいまいちな結果に終わってしまいました。エンジンマップの固定がメルセデスの独走をストップしてレッドブル・ホンダに有利に働くかと思いきや、マックス・フェルスタッペンが思いのほか沈んでしまったというのは、ちょっと理由が分からないですね。

 フェルスタッペンのコメントを見る限りは、ローダウンフォース仕様のセッティングがいまいちで全然リヤがグリップしないということでしたが、もともとレッドブルのマシンはリヤが凄くピーキーで、今回のモンツァはおそらくスパ・フランコルシャン(ベルギー)よりダウンフォースを減らしてきているはずです。

 そのあたりのダウンフォースレベルの限界値みたいなものがあって、その限界値を超えたところで、もともと持っていたピーキーさがさらに増してしまって、フェルスタッペンですらコントロールできない領域に入ってしまった可能性がありますよね。

 イタリアGPのモンツァでレッドブル・ホンダのマシンのコーナリングパフォーマンスを引き出すところまでダウンフォースをつけてしまうと、ストレートスピードが圧倒的に遅くなってしまったり、パフォーマンスが交差する部分が今回は微妙にズレてしまった可能性があります。外から見ている限りは予測しかできないですが、空力、ダウンフォース、コーナリング、ストレートスピードというのがちょうど交わるバランスがあって、今回はその限界値をギリギリのところで外してしまったのでしょうね。

 そして、意外とダウンフォースがなくても走れてしまったのがアルファタウリ・ホンダのクルマです。おそらくあのマシンはもともとピーキーさが少ないので、スパよりダウンフォースが減ったモンツァでも、ある程度コントロールができるマシンだったのかなと想像できます。

 あとは、ガスリーがしっかりと走れるマシンは後ろのグリップがしっかりしているクルマというイメージがあるので、そういった意味でもアルファタウリ・ホンダのマシンのほうが、レッドブル・ホンダよりもピーキーさが少なく仕上がっていたと思います。モンツァでは、その特性の差がアルファタウリ・ホンダにはポジティブに、レッドブル・ホンダにはネガティブに出てしまったのかなと見えましたね。

 今回はマクラーレンとレーシングポイントも良かったですね。ただ、フェラーリはやっぱりダメでしたね(苦笑)。パラボリカでのシャルル・ルクレールのクラッシュは、相当ダウンフォースを減らしているというのが要因のひとつです。前のクルマに付いていたわけでもないですし、単独でのアクシデントなので、ダウンフォースをギリギリまで減らして走っているので、ああいうミスが起きやすくなってしまいます。

 パラボリカは特にダウンフォースが効くコーナーですし、リヤのダウンフォース量を軽くして走らせると、パラボリカの出口はマシンの後ろが出て(リヤのグリップを失って)コントロールができなくなってしまいます。コーナーの入口からクルマのダウンフォースが軽い状態で入っていますし、その状態でアクセルを踏み込んで加速していかないといけないので、ああいう状況は起こりえます。

 ルクレールはすごく不安定な状況でマシンをコントロールせざるを得なかったんですよね。フェラーリはストレートが遅い分、ダウンフォースを削ってドライビングでカバーしなければいけないので、無理して走っていて苦労していますよね。

 次のグランプリになりますが、トスカーナGPは久々のサーキットになるのでとても興味深いですね。ムジェロ・サーキットという最近F1を見始めた方はほとんど知らないサーキットだと思います。僕はミナルディ時代、工場がムジェロと近かったのでテスト走行を何度もしていました。当時とレイアウトはほとんど変わっていないと思いますが、コースのイメージはハンガリーGPのハンガロリンクですね。

 高速コースというウワサがありますが、全然低速サーキットです(苦笑)。ストレートは結構長いのですがコーナー自体はほとんど低速なので、マシンはフルダウンフォース仕様になると思います。唯一、下ってからの高速の右コーナーがあって、ここは結構、身体的には厳しいのですが、それ以外はほぼすべて低速コーナーなので走っている感覚はハンガロリンクです。ハンガロリンク+高速右コーナーという感じで僕は結構好きでしたね。

 コース特性はシルバーストンやスパ、モンツァとも違いますので、この2戦のベルギーとイタリアからはがらっと展開が変わると思います。そして、これでまたコース特性が一巡することになりますが、この連戦中にそれぞれのマシンがどう進化しているか、その度合いも見れるんじゃないかなと思います。

 第3戦のハンガリーGPは遅かったけれど、トスカーナGPのムジェロでは速いということはクルマが進化しているということになります。それでもやはりムジェロについては各チーム、データがほとんどないですから、チームがどれだけ高いシミュレーション技術を持っているかというところの差が出てくると思うので、チーム力の高いところがやはり強いのかなと思いますね。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24

2020年スーパーGT Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTの中野信治監督
Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTの中野信治監督

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