更新日: 2020.09.24 12:58
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第11回】多重クラッシュは「起こる可能性があったのでは」初開催のムジェロは満身創痍
決勝レースは1ストップと2ストップに分かれることが予想されたので、そこで上手くフリーエアーに出してやれば勝負ができるかと思っていたのですが、残念ながらロマンは1周目に2コーナーの進入で押し出され、もらい事故という形でかなり大きなダメージを負いました。僕はもうバリアにぶつかった時点でリタイアだと思ったのですが、なんとかコースに戻れそうだということで走り出しました。
しかし1度目の赤旗中断でピットレーンに戻ってきたロマンのクルマを見て、普通だったらリタイアするレベルのダメージを負っていることがわかりました。フロアの左側が大きくえぐれていましたし、バージボードも半分以上ありませんでした。
フロントウイングやサイドポッドも壊れていたので、これらは赤旗中に交換しましたが、フロアの交換は30分以上かかるので時間内に交換することはできず、応急処置を施すにとどまりました。しかし空力のダメージは酷く、ラップタイムに換算すると毎周1.5秒のロスになるほどでした。
それでも良かった点は、最後のリスタートのときに、あのボロボロのクルマでロマンがジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)とフェラーリの2台を抜いたことです。後で触れますが、ウチはこの時点でケビンのクルマが大破してリタイアおり、ロマンの方もテープを貼って修復して送り出した状況だったので、そういうボロボロのクルマで3台も追い抜いた姿を見て、ガレージから歓声が聞こえました。
その後に抜き返されるのをわかっていても、まったく良いところがなくてリタイアするのと、リスタートで3台抜いてフェラーリの前でホームストレートに戻ってくるのでは、チームのみんなにとって全然違いますからね。
■リスタート時の多重クラッシュは、現行の規則下では起こるうる可能性があった
一方でケビンは、週末を通してあまり良くなくて、レースではセーフティカー(SC)明けのリスタート時にアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)に追突されてリタイアとなりました。
このリスタートの時に何かあったのかというと、まず中団勢のなかでも前の方を走っていたダニール・クビアト(アルファタウリ・ホンダ)が前車との間隔を空けた後にストレートに出たところから一気にフルスロットルで加速し始めました。ところが前のクルマに詰まったクビアトが一気にブレーキを踏んだので、その後ろにいたエステバン・オコン(ルノー)が左に避け、さらにオコンの後ろにいたケビンも速度を落としました。
それに続いて、ケビンの後ろを走っていたニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)もケビンを左に避けました。でもラティフィの後方にいたジョビナッツィはまだスロットルを開けていたので、ラティフィが左に避けて前が空いたところで、ケビンに追突してしまったのです。
ロマンはこの多重クラッシュに巻き込まれずに済みましたが、目の前でアクシデントの一部始終を見ていました。赤旗でピットレーンに戻ってきた時は、クルマを降りてヘルメットも外さないで僕のところに来て、どれほど怖い思いをしたか話してくれました。ロマン曰く、「これまでF1に乗っていて怖いと思ったことはないけれど、今回初めて怖いと思った」そうです。