──ジルはよくクレイジーだと言われていましたが、評判どおりでしたか?
シェクター:私がGPDA(グランプリ・ドライバーズ・アソシエーション)の会長を務めていたとき、ジルはとても協力的で、素晴らしいメンバーのひとりだった。彼も私も基本的な考え方は似ていて、できるだけ安全に走るという態度だ。でもここがチャンスと見て取れば、慎重さをかなぐり捨ててアグレッシブに攻める。彼は計算された危険しか冒さなかった、と私は考えているんだ。人々がジルをクレイジーだと言うのは、彼が意図的にこしらえたイメージであって、実際はそうじゃない。クレイジーだと思われることを彼は楽しんでいたのだと思う。
──ディディエ・ピローニとのいさかいについて何か聞いていますか?
シェクター:彼から電話がかかってきた。私達の関係は常に正直でオープン、ウソやごまかしの類がまったくなかったから、ふたりの友情がいかに貴重だったか、きっと彼も骨身に沁みていたのだろうね。ピローニがやったことはその真逆で、チームメイトにあんな仕打ちができるなんて、ジルには想像も及ばないことだった。それくらい彼は純真で、おまけに底抜けのお人好しだったわけさ。天地がひっくり返るほどショックを受けてとことん打ちひしがれていたな。まさに残酷と言うほかないね。
──事故の知らせを受けて、なにを考えましたか?
シェクター:何がなんでもピローニを打ち負かさなければならない、とジルは決意していたはずだ。それがとんでもない重圧になるほどにね。トラブルはこういう時に起きる。セッションも残りあとわずか、ここで一発決めたれ! とか思ったときに限ってバカなマネをしでかすのさ。ゾルダーで実際に何が起きたのかは知らないが、ジルの心理状態は容易に想像がつく。彼はチャンスに賭け、それがペイしなかったということだ。私もおなじ過ちを犯したことがあるから分かるんだ。今こうして喋っているのは、単に運が良かっただけさ。
──事故がなければジルはワールドチャンピオンになれたでしょうか?
シェクター:ジルは勝利そのものよりも勝ち方にこだわるドライバーだったから、そのあたりはどうかな。でもジルのキャリアには、まだまだ先があったはずなんだ。1982年はチャンスが十分あったと思う。そんなジルをファンもマスコミも愛してやまなかった。予選タイヤで最速ラップを叩き出すときの走りなんか、私が見ていても惚れ惚れするくらいだったものな。

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誌面ではビルヌーブのほか、ファン-マヌエル・ファンジオ、ジム・クラーク、エマーソン・フィッティパルディからニキ・ラウダ、アラン・プロスト、アイルトン・セナ、ミハエル・シューマッハーにフェルナンド・アロンソ、そしてルイス・ハミルトンまで“F1十勇士”の素顔に迫るエピソードが満載されている。
ほかにもジャッキー・スチュワートが語るクラークの素顔や、セナに命を助けられたエリック・コマスの回想なども収録されているほか、ドイツ・ケルンにあるミハエルの歴代愛機コレクションにも現地取材を敢行しておりF1ファン必見必読の内容となっている。
ニューズムック『レーシングオンNo.509 F1英雄たち』特集は、ビルヌーブの27番をイメージした特製ローソックスの特別付録がついて現在好評発売中だ。内容の詳細と購入は三栄のオンラインサイト(https://www.sun-a.com/magazine/detail.php?pid=11413)まで。
レーシングオンNo.509 F1英雄たち
オールカラー116ページ
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