路面が乾いてきて、ほかのドライバーのタイヤはグレイニング(ささくれ摩耗)が出てきてタイヤのダメージが大きくなっていく状況のなか、ハミルトンのタイヤが長く保ったということは、やはり走らせ方の部分が大きいのかなと思います。あとは、クルマのセットアップを少しドライ寄りにしていたのかなとも思います。
ただ、チームメイトのボッタスは苦しんでいましたよね。あの状況を見てしまうと、やはりハミルトンのドライビングが光りますね。前回も言ったと思うのですが、ハミルトンはタイヤを横方向にあまり使わなくても速く走れるドライバーです。今回のレースは特にそうだったのですが、タイヤを横方向にあまり使わず、ステアリングを切りすぎないドライビングがピタッとはまったのかなと思います。
ハミルトンのタイヤもグレイニングが出ていて相当辛かったと思います。ただ運が良かったのは、さらに路面が乾いてきてウエットタイヤが終わってしまい、溝がなくなっていましたよね。そのほぼスリック状態のタイヤが路面にうまくはまりましたね。
その状況で、最後にまた雨が振ってきていたらレースを走りきれていないと思います。ですので、路面状況からタイヤ、レース展開、天気までもがすべてハミルトンに味方していました。見ていて『持ってるな〜』と思いましたね(苦笑)。いろいろな偶然が重なって、偶然というのは引き寄せるものだと思いますが、今回のハミルトンは勝つべくして勝ちました。
一方、序盤にレースをリードしていたレーシングポイント勢ですが、ペレスはタイヤを最後まで保たせられましたが、ストロールは保たすことができませんでした。レース後、数日が経ってチームはフロントウイングの裏に破損があったことを明らかにしましたが、もともとストロールは元気がいいドライバーです。
ドライビングでも思いきりがいいので、今回の予選で速かったのだと思います。クルマをコントロールするのも上手いですが、ただ今回は、そのコントロールの上手さが逆に仇となった感もありますね。フロントウイングの破損があったのかもしれませんが、結構攻めすぎてしまい、タイヤを保たせられなかったように見えました。そのあたりは経験の差もあったのかもしれません。
これでハミルトンが7度目のチャンピオンを決めました。これは本当に相応しいことです。何度も申し上げていることですが、ハミルトンは本当に強く成長しました。初めから速くて優勝するだけではなく、自分がどんな状況でも上位に上がってきて、最後にはレースの流れさえも味方させて、気がつくとハミルトンが勝っていますよね。今回のトルコGPは、本当にそれが象徴されたレースでした。
これも何度も申し上げていますが、今のハミルトンは単に速いだけではなく、大きなミスはまったく犯すことがありません。以前のハミルトンならば、あの路面状況ではスピンをしてしまったり、タイヤをダメにしてレースを終えていたかもしれません。しかし、今の彼は本当に自分自身をコントロールして最後まで走り続けることができるドライバーになっています。かつてのメンタルの弱さを感じさせないレースでした。
今回のトルコGPは現在のハミルトンの強さが再確認させられる要素が詰まった『ハミルトン劇場』でしたね。速さや強さ、チームとのレース戦略だけでなく、レースの流れも手伝って勝つことができた。これは本当に凄いことで、チャンピオンを7回獲得したドライバーに相応しい勝ち方でした。

最後にF1とは離れてしまいますが、同じ週末に行われたスーパーフォーミュラ第4戦オートポリスではTEAM MUGENの野尻智紀が優勝を果たすことができました。僕がTEAM MUGENの監督になって2度目、今シーズン初めての優勝を難しい展開のレースで達成することができました。セーフティカーが2回も導入される状況でしたが、ピットのタイミングも逃すことなく、うまくタイヤ交換もでき、ピット作業でもチームはミスなく良い仕事をしてくれました。
そしてドライバーの野尻もミスなく、予選一発の集中力も含め、今回は非常に乗れていましたね。今回は野尻自身の雰囲気というか、レースの週末『勝ちに行く空気』をすごく出していました。コメントや態度、振る舞いなども含めて、ずっと安心して見ていられましたね。レース展開も我々に流れがあり、ピットタイミング、そして作業を含めてチーム全員で勝ち取った勝利だと思います。本当にTEAM MUGENが強くなっているということを、監督の僕としても感じられるレースでした。
まだ今シーズンは、鈴鹿での2連戦と最終戦富士という3戦が残っているので、さらに勝ち星を重ねられるようドライバーも含めて、チーム一丸となってもっとブラッシュアップしていきます。まだまだTEAM MUGENは強くなれると僕は思っていますし、僕が目指しているチームのイメージにはまだまだ到達していないので、チームとして、僕自身も含めてやるべきことがたくさん残っていると感じます。もっともっとその部分を詰めていき、あと1回、2回でも勝つことができれば最高です。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
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