──当時のウイリアムズには、ジェームス・ロビンソンや、少しあとのサム・マイケルのように、優れたエンジニアが何人もいましたね。
ヘッド:ジェームスは確かに頭のいい人物ではあったが、ちょっと自己中心的だった。才能がないわけではなかったけどね。サムがウイリアムズに来たのは、2001年シーズンが始まる前のことだったと思う。私は2004年にテクニカルディレクターを退いて、その職をサムに引き継いでもらった。
2003年のウイリアムズには相当な競争力があったにもかかわらず、本当につまらない理由で最後の3レースを台無しにしてしまった。そして、2004年はショートノーズに2本の前方にせりだすウイングステーを付けた、あの不格好なクルマでスタートし、あまりいい成績を残せなかった。私自身も、その頃にはロンドンから通勤するようになり、技術チームの仕事を十分にコントロールできていないと感じていた。そんなこともあって、2004年からはサムに任せたんだ。
──2003年には、モントーヤとラルフのコンビで世界選手権を勝ち獲る可能性があったと、今でも思っていますか?
ヘッド:可能性どころか、楽勝でタイトルを獲れていたはずだ。まず最初のつまずきは、イタリアGPの前に行われたモンツァでのテストで起きた。
フェラーリが、ミシュランのフロントタイヤにクレームをつけたんだ。新品の状態での寸法は規定値以内だが、消耗するとトレッド幅が規定の最大値より大きくなると言ってね。そしてFIAもそれを認めて、『このタイヤを使うことはできない』と言われた。ミシュランは大急ぎで改良したタイヤを持ち込み、モンツァテストの大半は、そのタイヤが摩耗した時にトレッド幅が規定を超えないかどうかの確認に費やされた。
それに加えて信頼性の問題があり、さらにはモントーヤとラルフのお互いに向けられた激しい敵対心がチームの足を引っぱった。あのふたりがシーズン後半戦で見せた子供っぽい態度は、私には本当に信じられないものだったよ。だが、とてもパワフルなBMWエンジンのおかげもあって、私たちのクルマがフィールドで最速だったのは確かだ。
■BMWとの別離
──ある意味でウイリアムズとBMWのパートナーシップは、活かされずに終わった好機だったのでは?
ヘッド:まさにチャンスの逸失だったね。タイセンは2002年頃から、いずれは自分でチームを運営しようと考えていたのだと思う。そのために、彼は様々な要求を突き付けてきた。2003年には契約更新の交渉をしたのだが、その際にトランスミッションやシャシーの図面から空力のデータまで、彼らが求めればすべてを開示することを要求された。風洞実験グループには、BMWのエアロダイナミシストが送り込まれた。彼らが何をしたいのかは明らかだった。自前のチームの立ち上げを目指していたんだ。
私たちは、あらゆるものを引き渡すことを強いられ、ミュンヘンでは徐々にそのための人材も集め始めていた。その挙げ句に、彼らはウイリアムズの株を買いたいと言ってきた。それも呆れるほど安い金額でね。
私たちはそのオファーを断った。その結果BMWは私たちのもとを去り、のちにザウバーを買収してそちらへ乗り換えた。実際のところ、もう少し利口に振る舞っていたら、彼らと袂を分かたずに済んだかもしれない。だがそうなると、彼らがグローブのファクトリーに乗り込んできて、あれこれ指図をするようになる。さすがにそれは受け入れられなかった。私自身が、どちらかと言えば指図をしたいタイプの人間だからね。
いずれにしても、これだけは言っておきたい。2001年から2005年の間に、ウイリアムズはまあまあのエンジンを使って、グランプリで10勝を挙げた。一方、2006年から撤退までの4年間で、彼らはたった1勝しかしていない(笑)。
──BMWは2009年限りでF1から撤退しました。ですから当時彼らがウイリアムズの株式を手に入れたとしても、いずれはすべて元に戻っていたのではないでしょうか。
ヘッド:ウイリアムズにとっては、その方がずっと良かったのかもしれない。そして、ロス・ブラウンがホンダと結んだような契約を交わして、チームを復活させていただろうね!
──フランクとの関係は、あなたにとってどのようなものでしょうか?
ヘッド:いつも言っているように、誰かと40年近くも仲良く付き合っているのなら、それはいい友達同士に他ならない。フランクは、私の仕事には干渉しない方がよいと考え、そうしたやり方を守ってきた。彼は枕に頭をつけたらすぐに眠れて、毎晩10時間は寝られる人だ。一方、私はその正反対の心配性だが、私たちのコンビはとてもよく機能していた。


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『GP Car Story Vol.34』では、今回お届けしたパトリック・ヘッドへのインタビューのほか、FW22の空力を担当したジェフ・ウィリスや、BMWの『ふたりのボス』であるマリオ・タイセン、ゲルハルト・ベルガーなど読み応えある記事満載でお届けする。
自動車メーカーと組む利点をヘッドは十分に理解していた。それがいかに大きな力になるかということを。しかし、自分たちのプライドがあったからこそ、踏み込ませたくない領域もあった。それこそ、9度のコンストラクターズタイトルを獲った超名門チームゆえの自信だったのだろう。
あのとき、BMWと袖を分かつことがなければ、もしかしたらウイリアムズの未来は少し変わっていたかもしれない。私たちは彼らの未来を知っている。だからこそ、FW22を通じて見えてくるものに今のウイリアムズと重ねられるものがきっとあるはずだし、今、このタイミングで同車をとりあげた意味もある。
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