更新日: 2021.02.15 15:31
グロージャンとの10年間を回顧。F1デビュー戦で示した才能と精神面の課題/小松礼雄コラム番外編
今だから言える話ですが、2014年第11戦ハンガリーGPで、ロマンはセーフティカーラン中にタイヤを温めていた際、ターン3で縁石に乗ってクラッシュしてしまいました。この瞬間にロマンは僕に「(クラッシュしたのは)お前が無線で喋るからだ」と言ったのです。僕はそんなはずはないとかなり腹が立ったのですが、万が一のためにテレメトリーを見直して、僕が最後に無線で話したのはロマンがピットストレートを走っていた時と再確認しました。
もし彼がピットウォールに戻ってきた時に同じことを言うのなら、本当のことを言おうと思っていたのですが、ロマンは僕の顔を見てすぐに「本当に悪かった」と謝ってくれました。自分のミスだとわかっているのですが、その瞬間にはそうは言えないのです。謝ってくれたから僕もそれ以上は何も言いませんでしたが、こういうことを言ってしまうのも精神的な弱さが理由のひとつです。
サーキットでのロマンはまるで“鎧”を着ているようで、パドックという場所は彼には合っていないと感じました。でもサーキットを離れて、たとえば家に遊びに来ると、僕の子供たちと楽しそうに一緒に遊んでくれるすごくいいお父さんです。そういう姿を見ているとこれが本当のロマン・グロージャンという人間なんだと思います。家族のことをすごく大事にしていて、優しくて。バーレーンでクラッシュした時も、彼が家族のために最後まで一瞬たりとも諦めないでマシンから脱出してきたのが良くわかりました。ただ残念ながら、こんな彼の本当の姿は伝わっていないかもしれません。
そんなロマンと一緒に、2016年からハースという新しいチームで5シーズンを過ごしました。もちろん、ロマンの貢献はとても大きかったです。新チームでは何が苦しいかというと、データ解析をはじめとしてあらゆる分野の能力が足りていないので、ロマンのような経験のあるドライバーが良いところや悪いところを指摘してくれるとすごく助かるのです。また彼のようにある程度実力がわかっているドライバーが乗ると、たとえば「ロマンの予選結果がこの程度なら、ここら辺りがクルマの限界かな」というのもわかります。
1年目の開幕戦オーストラリアGPで6位に入賞したのは赤旗中断による棚ぼたの一面もありますが、それでもよく走ってくれましたし、第2戦バーレーンGPでの5位は、予選もレースも真の実力です。もし初年度のドライバーがエステバン・グティエレスとあまり経験のないドライバーのコンビだったら、あのような結果は出せていないでしょうし、その後のチームの成長にも大きく影響していたと思います。
2018年には第9戦オーストリアGPでロマンが4位、ケビンが5位に入賞し、第14戦イタリアGPでは失格になったもののいいレースをしてくれました。チームのベースを作り、実力を測るための指標として常にある一定レベルの参考データをくれて、そしてチームを牽引してくれたので、本当に大きな助けになりました。これからはインディカーにレースの場を移しますが、ぜひF1で叶えられなかった勝利を獲ってきてほしいと思います。