更新日: 2021.03.26 12:27
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第1回】転換期を迎えたハース。若手ふたりがチームにもたらす“ポジティブ思考”に期待
一方ミックは、ニキータとはまったく違うタイプのドライバーです。彼は父親(ミハエル・シューマッハー)を見て育ち、いろいろなことを教わっているはずなので、“こうやって振る舞わないといけない”というのが自分のなかにたくさんあり、常に自分に高いハードルを設定していると思います。それはそれでいいのですが、高すぎるハードルを設定しても逆によくないですし、また弱みを見せられないという部分がありそうで、その辺りが少し気にかかりました。
たとえば、今回のテストでは初日に油圧系トラブルが起きてギヤボックスを交換することになりました。セッション終了前になんとかもう一度コースに出ることができたのですが、この時ミックは「一生懸命直してくれてありがとう」、「こういうことはつきものだから、レースで起きなくてよかった」と言ってくれましたが、こういうことを言わないといけないと思っているようなところがあります。平たく言えば、優等生を演じすぎて疲れないかなと思ってしまいます。ですから、彼がある意味『不満を言えるような雰囲気・環境』を作るのも大事なんじゃないかと思います。
それに彼は「うまくいった時には褒めてくれなくていい。弱点や修正点だけ教えてほしい」と言うんです。向上心があって良いという見方もできますが、自分のいいところもちゃんと認識して自信を持たないと、短所ばかり気にしていてはどこかで折れてしまいます。
もしかするとこれも父親からの教えなのかもしれませんが、これが通用するのはすべてがうまくいっている時であって、自分がチームメイトに負けたり思うように結果が出ていない時には心配です。何事もバランスが大事だと思うので、短所を直すことと長所を伸ばすことを上手くバランスを取ってやらないといけないなと思っています。この辺りはこれから付き合っていく上で徐々にお互いの理解を深めながらやっていかないといけないです。
このようにニキータとミックは全然違うタイプのドライバーですが、僕はドライバーをふたりともをルーキーにしてよかったと思っています。昨年の第16戦サクヒールGPでロマン(・グロージャン)の代役としてピエトロ(・フィッティパルディ)を乗せた時にもそうだったのですが、彼ら若いドライバーは学ぶことがたくさんあるので、レース順位に関わらず「ここをもっとうまくやりたい」などと自分からいろいろな前向きなことを言ってくれます。
そうすると、「次のレースではこうやってみよう」とどんどん改善策を考えていけるんです。サクヒールGP直後、僕やスタッフたちは明るい雰囲気でしたし、最下位でレースを終えたのにあれほどポジティブな気持ちだったのは初めてでした。
特に今年はレース結果は厳しいものになるので、どんな状況でもよかったこと・悪かったことを両方きちんと見つめて、次のレースにポジティブな気持ちを持って向かうというのが大事になります。ミックとニキータは、これを一緒にやっていくのにいい選択だと思っています。