運命の日まであと66日となる94年2月24日、FW16は小雨降るシルバーストンで、セナの手によってシェイクダウンが行なわれた。ヘッドの言葉を借りれば、“フルアクティブカー”のFW15Cと“暫定アクティブカー”のFW14Bの間にはアクティブサスという単語で結ばれる“血縁関係”があったが、FW16はその流れから離れた完全なる新設計マシンだった。
電子油圧制御のアクティブサスが禁止となり、パッシブサスに戻ったことで、同じ働きをジオメトリーだけで解決する必要にかられた。そのためウイリアムズの技術部門はサスペンションの取り付け位置やギヤボックスに至るまでメスを入れることになる。
FW16の外見的特徴は2点挙げられる。まずは足回り、リヤウイッシュボーンのアッパーアームをドライブシャフトの位置まで下げ、それらすべてをウイング形状のカバーで覆う処置が施された。当時、まだどのチームも試みていないアイデアで、サスペンションを通過するエアフローを邪魔せずにリヤウイングへ導こうという考えである。
もうひとつの特徴はリヤのロワウイング。当時は“ブーメランウイング”とも称された弓なりの形状を施した同デザインは、この年のトレンドとなり、各チームがこぞって類似デザインを採用したほどだった。
ルノーは、シリンダーヘッドの設計を変え、燃焼室、吸気マニフォールドもまったく新しいデザインとなったRS6エンジンを投入。開幕前の時点で93年型RS5と比べて300~400rpmの向上が見られたという。
細かいパーツに至るまで軽量化を試みたことで、重量も134kgとRS5に比べて3kgも軽く仕上がり(Vバンク角はRS4、RS5と同じ67度)、空気抵抗軽減のためウイリアムズとの共同作業で熱対策も検討され、エアインテークも見直された。
セナは開幕前にある一部の関係者にだけ意味深なコメントを残している。「もし今年、大きな事故が起きなければ、それはラッキーだ」と。まるで自らの運命を案じていたかのような発言。残念ながら彼の予測は的中していく。
開幕前のテストでベネトンのJ.J.レートが、開幕後のテストではフェラーリのジャン・アレジがクラッシュによって相次いで負傷。ともにレースを欠場するほどのケガだった。運命の1戦となるあのイモラでは、ジョーダンのルーベンス・バリチェロが大クラッシュで鼻骨を骨折し欠場、さらに新人のローランド・ラッツェンバーガーが予選中に死亡する痛ましい事故に見舞われた。
