更新日: 2021.04.30 10:58
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第3回】レース完走を最優先。難コンディションでも予定通りのタイヤ戦略を完遂
一方でミックは、セーフティカー中にタイヤを温めようとしてクラッシュしました。これについて言うことはありません。本人も自分に対して腹を立てていましたし、そういうこともあります。かつてはロマン(グロージャン)もハンガリーで同じようなことをしましたからね。
ただやっぱりミックのすごいところは、ミスをした後にすぐ気を取り直して、冷静にしっかりと走れることです。バーレーンではスピンの後の第2スティントをいいペースで走りましたし、今回もインターミディエイトに履き替えた後がそうでした。このピットストップで後方まで沈んだのですぐに青旗を振られてしまい、他車を抜かせる際にラップタイムは落ちてしまいましたけど、その前まではよかったです。
また、ニキータとは反対に赤旗後にC3タイヤを履いた時のタイムがとてもよかったです。同じC3を履いていたアルファロメオとも遜色ないタイムで、前を走っていたC4のセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)にもしっかりとついていくことができました(ベッテルが苦戦していた理由はわかりませんが)。一度ミスをしてもその後崩れないというのは彼の大きな強みです。
ミックのイモラでの反省点を挙げるならば、慎重になりすぎたFP1のドライビングと、レースでのクラッシュという2点です。もちろんニキータと同様にこの様な改善点もチーム一丸となってサポートしていますし、それに加えてミックの場合はFDA(フェラーリドライバーアカデミー)のジョック・クレアもよくサポートしてくれますので助かっています。
■赤旗前のソフトも、赤旗後のミディアムも「セオリー通りの戦略」
レース中盤の赤旗後、タイヤ戦略が別れました。ニキータとミックをはじめほとんどのドライバーがC3を履いていましたが、これはウチとしてはセオリー通りの戦略です。C4の方が温まりがよくて最初はタイムが良いかもしれませんが、仮にタイヤが保たなくてもう1回ピットインするはめになる、というのだけは避けたかったのです。セオリー通りにC3タイヤで確実に走りきることができるば最も得ることが多いのです。
実はレース前のブリーフィングでも、インターミディエイトからドライタイヤに交換する際は、C3を履くと決めていました。ではどうして赤旗の前に一度C4を履いたのかというと、それはウチが新人ドライバーを乗せているからです。ミックは21周目に、ニキータは23周目にそれぞれソフト(C4)に交換しましたが、あの時点で残り周回数は30周以上ありC4では最後まで走りきれるとは思っていません。
とはいえ先にも書いたように、ウチの最大の目標はとにかくコース上に留まって、最後まで走ることです。ドライバーがそうできるよう最大のチャンスを与えるには、熱の入りやすいC4を履かせることが最善策だったのです。
昨年のロマンとケビン(マグヌッセン)のような経験のあるドライバーを起用していたら、インターミディエイトでもう少し引っ張ってからC3に履き替えて、最後までいこうとしていたと思います。そうするとタイヤの温まりが悪くても走らざるを得ない状況にはなりますが、今はまだそんな与えなくてもいいプレッシャーをニキータとミックには与えたくないんです。彼らが自信を持って走れるように、できる限りのことをこちらでやらなければいけないので、C4を履いたのも戦略の一環でした。
ふたりのドライバーには「目の前の1レースのことだけを考えずに、5〜6レースをひと区切りとして、その区切りを終えた時にどれだけの経験を積んでいるかが重要」だと伝えています。ちゃんと5〜6レースの間にいい経験を積み上げていくことが出来れば、次のレベルにいけるはずです。次戦はポルトガル。ここもまたバーレーンやイモラとは違ったチャレンジが待っています。しっかりと週末を通して走ってきたいと思います。