ふたりがスタートで履いたC3タイヤで苦労したとはいえ、ウイリアムズと同じようにセーフティカー(SC)のタイミングでタイヤを変えることは基本的には考えていませんでした。まだかなりの周回数が残っていたので、ミディアムで最後まで走りきれるかどうかというと、走れない可能性の方が高かったのです。なんとか走りきるためにタイヤをセーブしながら走ることもできますが、そうするとラップタイムがどうしても落ちます。今回のウチの場合はベースとなるラップタイムが遅かったので、それよりも遅く走って1ストップを目指しても結果には繋がりません。
ウイリアムズを見ると、第3スティントで23周走ったラティフィは、最後の5周でアストンマーティンやアルファロメオに抜かれてどんどんタイムが落ちていました。チームメイトのジョージ・ラッセルも第2スティントを19周走った後、残り37周のところでピットに入りましたが、残り15周くらいの段階でかなりペースが落ちていました。ラッセルの前を走っていたアルピーヌの2台も1ストップ戦略をとりましたが、最後はまったく競争力がなくフェルナンド・アロンソは残り4周でタイヤ交換せざるを得ませんでした。
SC後の残り56周を、もし1度のピットストップのみで走ろうとするならば、どうしても残り30周あたりまでピットストップを我慢しなければいけなくなります。ですから28周目(残り37周)にピットインしたラッセルのタイミングはちょっと早すぎました。アントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)は残り27周まで引っ張りましたが、すでにピットストップを済ませたドライバーたちに抜かれ、最終的にピットストップ1回分ぶんくらいのタイムロスになりました。ですから、実際に1ストップが機能したとは言えません。
もちろん僕たちがレース前にここまですべてわかっていたわけではありませんが、1ストップを狙えばこのようにタイムロスをすることは想定できていました。仮にジョビナッツィと同じ戦略を選んでも彼以上の結果が出るとは思えなかったので、SC中のピットストップを見送って正解だったと考えています。
4レースを終え、特にミックは進歩していますが、クルマへの慣れという部分ではふたりともまだまだです。やっぱりF1は簡単じゃないし、物事が進んでいくスピードも速いですから。タイヤの使い方ひとつをとって見ても、FP1の出だしで路面ができていない時に硬くてあまりグリップしないC1(ハード)タイヤで走り出すのに、その直後には柔らかいC3タイヤでタイムを出さなければいけません。これは当たり前ですがとても難しいことです。
もっと言えば、ひとつのランから次のランの間で何も変わらない(一定した状態で走れる)ということはほぼありません。タイヤの種類、路面状況、風向き、燃料の搭載量など、複数の条件が変わっていることがほとんどです。だからクルマのバランスや感触が変わった時に、何が原因だったのかということを正確に把握するのが特に比較的経験の少ないドライバーにとっては難しいのです。以前は、レースドライバーになる前にテストドライバーとしてテストで走行距離を重ねてからレースに参戦していたのでベースができていました。今はシミュレーターなどが発達してきているものの、やはり実際のF1での走行距離不足を補うのは容易なことではありません。

