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投稿日: 2021.05.30 11:20
更新日: 2021.05.30 11:46

【中野信治のF1分析/第5戦】3勝分に値するフェルスタッペンのモナコ初優勝。復調フェラーリと低迷メルセデスを推察


F1 | 【中野信治のF1分析/第5戦】3勝分に値するフェルスタッペンのモナコ初優勝。復調フェラーリと低迷メルセデスを推察

 メルセデスのクルマの動きを見ていると全然ダウンフォースが効いていない感じがしました。パワーユニットの面でも、低回転時のトルクやドライバビリティが扱いづらいところがあるのか低速サーキットがイマイチなのか、速度域によってマシンが合わないという弱点がもしかしたらあるのかもしれません。レースを見ていてもクルマが路面に張り付いている感じはしませんでした。

 ハミルトンが週末を通してここまで目立った速さを見せられなかったことも珍しいですね。もう少し予選をうまくまとめていれば、ハミルトンはサインツと争うようなレース展開になっていたかなとも思います。レースではアルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリーに抑えられてしまったということも大きく、モナコは抜けないサーキットなので、前半は作戦としてタイヤをマネジメントしながらハミルトンは走行していました。

 その後、ハミルトンは前を走行する車両がピットインしたときにプッシュをして、その前に出るというオーバーカットを狙う作戦だったはずです。ですが、予想外にチームが早めにピットインさせました。あの作戦も奇をてらったというか、他のチームとは真逆のストラテジーを狙ったのだと思いますが、うまくはいきませんでしたね。

 アウトラップでのタイヤの温まりもそれほど良くなかったように見えましたし、ハミルトンがピットに入った段階では、他のドライバーたちもタイヤのデグラデーション(性能低下)にはそれほど苦しめられていなかったので、正直、動くには早いのではないかなと思いました。その後には7番手を走行していたセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)にもかわされてしまいました。メルセデスとハミルトンにとっては、特に作戦面で今シーズン初めて『すべてが裏目』に出てしまったレースでした。

 そんなこともあり、レース中の無線ではハミルトンの苛立ちがどんどんと募っていくことが手にとるようにわかりましたよね。『なんでこうなるの!?』『なんでこの作戦なの?』とハミルトンはチームに言っていましたが、それ以上のことは言わなかったので、やはり大人だなと思いました。ピットストップで順位が変わらなかった時はブチ切れてもおかしくないタイミングだと僕は思っていましたが、ハミルトンはよく自分の感情をコントロールしましたね。

 また、決勝ではこういったコースを得意としているベッテルやランド・ノリス(マクラーレン)が上位に上がってきました。ベッテルは今回非常に光っていましたし、マシンのポテンシャルを考えると、ドライバー・オブ・ザ・デーに値する走りだったと思います。レース中も緩急を使い分けて攻めるところで攻め、抑えるところは抑えるという、久しぶりにベッテルの元世界チャンピオンらしい走りを久しぶりに見たなという印象がありました。本当にチームが思い描いている作戦どおりのレースを展開し、順位も上げることができたので、これをキッカケや足がかりにして、今後また上位争いをしてほしいですね。

 あと、今回のモナコではプールサイド・シケイン(15~16コーナー)でいくつかアクシデントがあったことですね。予選Q3ではルクレールが最後のアタックでクラッシュしてしまい、決勝でも何人かのドライバーがガードレールにタイヤを当てて挙動を乱してしまいました。あのコーナーはレイアウトが変更されて昔よりも通過スピードが上がっています。うまくシケインのイン側の縁石を使いながら抜けるとスピードを乗せていけるのですが、そのためにはひとつめの右の15コーナーのインを、いかにガードレールギリギリまで攻めていけるかということがポイントになります。

 ドライバーは15コーナーに入ると同時か、コーナーに進入する瞬間はすでに次の左16コーナーの出口を見ているので、15コーナーはほぼ感覚で進入しています。次の16コーナーでは縁石に乗せたいのですが、縁石を乗せすぎた先には大きなカマボコ状の黄色の縁石が待ち構えています。ですので、ドライバーはそのカマボコ縁石に集中しなければなりません。

2021年F1第5戦モナコGP決勝レース
モナコで多くのドライバーを苦しめた縁石内側の黄色のカマボコ状縁石

 カマボコ縁石に乗せすぎるとマシンが跳ねてフロアを壊してしまったり、サスペンションが壊れてガードレールに突っ込んでしまいます。15コーナーの内側のガードレールはタイヤを擦っても大丈夫なのですが、それを2~3cmでも読み違えるとガードレールの餌食になります。ですので瞬間的な判断はもちろん大事ですし、目線の持っていき方も難しくて、右側のガードレールとすぐの左コーナーのカマボコ状の縁石の両方に神経を払わなくてはいけない特殊なコーナーでもあります。さすがに決勝ではある程度のマージンを取っているはずですが、予選での一発は攻めてタイムを出さないといけないので、そのマージンが取れないことはある程度、仕方がないことだと思います。

 角田裕毅選手(アルファタウリ・ホンダ)も初めてのモナコで、フリー走行2回目でクラッシュしてしまいましたが、あのアクシデントがなければ順調に予選Q1は通過できたと思います。フリー走行でマシンを壊してしまい、周回数が稼げなかったことが予選結果に影響していると思いますが、これはモナコを走る新人が“やりがち”なところですよね。ミック・シューマッハーもフリー走行3回目でクルマを壊してしまいましたし、角田選手も焦っていたわけではないと思いますが、これがモナコの難しさと言えます。

 レースでは結果的にフェルスタッペンが優勝して、ドライバーズランキングでトップに立ち、レッドブル・ホンダもコンストラクターランキングもトップになりました。前回、前々回のレースを見ていると、モナコでハミルトンが優勝するとフェルスタッペンにとっては流れが非常に厳しくなるなと感じていましたので、今回、『絶対に取り返さなければいけない』モナコでフェルスタッペンが勝てたということは、レッドブル・ホンダにとってかなり大きなことです。

 『モナコの勝利は3勝分に値する』と言われますが、フェルスタッペンとレッドブル・ホンダにとってはまさしく3勝分の価値ある1勝だったと思いますし、今シーズンを振り返ったときに、このモナコの優勝がターニングポイントになるかもしれません。フェルスタッペンにとって、モナコでの初めての表彰台が優勝という結果も非常に大きいですし、ホンダにとっても1992年のアイルトン・セナ以来のモナコ優勝ということで、レッドブル・ホンダにとっては素晴らしい結果になりました。

2021年F1第5戦モナコGP決勝レース
モナコ初優勝のフェルスタッペン。ハミルトンの連勝を阻止した意味でも価値ある勝利となった

 次戦はアゼルバイジャンですが、このサーキットも市街地ですがストレートがかなり長いコースです。モナコとはサーキット特性が違うので、今回と同じ結果にはならないと思います。モナコと同じ市街地コースではありますが、ある意味、答え合わせにもなるのかなと思います。モナコとアゼルバイジャンでコースの特性はまったく違いますが、今シーズンの各チームごとのマシン特性が垣間見れる可能性がありそうです。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24


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