更新日: 2021.06.16 18:24
多くの問題が発生するも、ドライバーの腕と勇気に救われたバクー。破綻が垣間見えた“興行優先主義”
混乱したレースにおいて、レースディレクターの判断も適切ではなかった。セーフティカーが出動するまでに、ストロールのケースでは40秒以上、フェルスタッペンの場合には80秒以上も時間を費やした理由は理解できない。
マイケル・マシ(F1レースディレクター)はダブルイエローで十分に減速しなかったドライバーを問題視するが、イエロー区間以外では“レース”が続行される状況ではその減速が難しいからこそ、VSCルールが導入されたのではなかったか。
安全を優先するなら、ストロールの事故の時点で赤旗が提示されるべきだった。マシは「コース右側にマシンが通れるだけのスペースがあった」と説明するが、カーボンファイバーの鋭い破片が飛び散っていないと、誰が確信できただろう?
フェルスタッペンの事故のあとも、レッドブルが「赤旗中断で全員がタイヤを交換したほうがいい」と助言するまで決断しなかった。
そして赤旗を出した理由は“セーフティカー先導でレースを終わらせたくなかったから”と言う。実質2周のスプリントレースのための赤旗だったのだ。FIAはいつから“興行”を優先してレースをコントロールするようになったのだろう?
こんな異常なコンディションのなかで、グランプリのクオリティを保ったのはドライバーの腕と勇気だ。週末を通じて速さを発揮してきたセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)は、スタート直後の鮮やかなオーバーテイクで予選のロスを取り戻し、フェルスタッペンにとっても心強いチームメイトの役割を完璧に果たした。
モナコ同様に見事なタイヤマネジメントを発揮したセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)は、11番手スタートからここでもオーバーカット作戦に成功。さらに、35周終了時点のリスタートでは1コーナーでシャルル・ルクレール(フェラーリ)を、ストレートでピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)をパスして2位表彰台の基盤を築いた。ゴールの後の笑顔が、何よりも雄弁に最高のレースを語っていた。
ラスト2周、予選のようなスプリントでルクレールと激しく争ったのはガスリー。50周目のストレートでルクレールが前に出ると、スリップストリームを使って再びフェラーリの前へ。1コーナーでインに入り、2コーナーでしっかりと表彰台を確保した。
ドライバーたちのおかげで、異例のスプリントは見ごたえのある華やかなものになった。しかしレースコントロールは“自分たちの判断が正しかった”と考えてはならない。いくつもの疑問符が残ったままだ。ドライバーの腕と強いメンタルに救われたことを忘れてはならない。