更新日: 2021.07.10 19:42
【海外ライターのF1コラム】故カルロス・ロイテマンを偲ぶ。エクレストンを唸らせた無冠のスター
彼が強烈な強さを示した時の話をしたい。1981年のイタリアGPの予選でのことだ。その数戦はターボエンジンを搭載したルノー勢が毎戦のように最前列に並んでいたが、ロイテマンはコスワースエンジンを搭載したウイリアムズでルネ・アルヌーとアラン・プロストの間に割って入った。チームメイトであり世界チャンピオンでもあるアラン・ジョーンズよりも1.2秒も速いラップタイムでだ。
事実上6つのコーナーしかないサーキットで1.2秒差だ。これにはビルヌーブも驚き、「あれは今年一番のラップだ」と周囲に語ったほどだった。
私が実際にグランプリの週末にロイテマンの走りを見ることができたのは、一度だけだった。それは1995年4月のアルゼンチンGPで行われたデモ走行だったのだが、その時の彼の走りは非常に印象的だった。
この年、F1カレンダーに14年ぶりにアルゼンチンGPが戻ってきて、それを記念してロイテマンがブエノスアイレスにあるオスカル・ガルベス・サーキットで1994年型フェラーリ421T1に乗って走った。
ロイテマンがフェラーリに飛び乗った時には路面がウエットから乾きつつある状態で、完璧なコンディションではなかった。彼のマシンには新世代のF1マシンよりも大きなエンジンが搭載されており、彼はあと数日で53歳の誕生日という年齢で、しかも12年以上もF1マシンを運転していなかった。そのため、彼に期待されていたのは、5周走行して観客に手を振り、マシンを無傷で持ち帰ることだけだった。
だが、その日の彼の走りは、我々の視覚、聴覚、すべての感覚に訴えかけるものだった。ロイテマンは、燃料切れでエンジンが停止するまで、13周も走り続け、一度のミスもなく、ラップタイムを更新し続け、最終的には直前に終了したばかりのFP1で11番手に当たるタイムを記録したのだ。
エクレストンも、ピットウォールで我々と共に、彼のチームにかつて所属したドライバーがトリッキーな最終コーナーを抜けて次のラップに入るところを食い入るように見ていた。
「しばらく走っていなかったとは思えないな」とエクレストンは言った。
「あのころと同じ、正確で優しいスロットルタッチ、冷静で淡々としたステアリングタッチだ。ロックアップもドラマもなく、すべてがシームレスだ。驚くべきことではないか。彼こそまさにスターだ」。今日のF1を作り上げた男は、そうロイテマンを称賛した。
そのとおり、彼こそまさにスターだ。彼の走り、彼のレースを見ることができた我々は幸運だと心から思う。我々の心のなかで、彼は永遠にスターとしての輝きを放ち続けるだろう。