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投稿日: 2021.07.25 11:55
更新日: 2021.07.25 12:13

【中野信治のF1分析/第10戦】ハミルトン vs フェルスタッペン。新フォーマットを背景にした意地と運命の1周目


F1 | 【中野信治のF1分析/第10戦】ハミルトン vs フェルスタッペン。新フォーマットを背景にした意地と運命の1周目

 9コーナーに進入した時に2台はほぼ横に並んでいました。コプスと呼ばれるターン9はドライバー目線だとクリッピングポイントが見えずらく、少しオフキャンバー気味になってアウト側が若干下がっているコーナーで、イン側のピットウォールも視線の邪魔になっていたり、いろいろな理由でターンインするポイントが見えない難しいコーナーです。

 ハミルトンとしてもフェルスタッペンにブロックラインを取られているので、結構キツいラインからターン9に入らざるを得なくなります。ただ速度差がかなりあり、あそこではハミルトンも早々には引けないので並んで入って両者接触という形になってしまいました。

 結果として、フェルスタッペンはクラッシュ、走行ができたハミルトンに10秒加算のペナルティが出ましたが、あの判定に関してあまり僕らが外から言うことではないのかなと思います。ただ、シルバーストンを走行したことのある人間としては、あのアクシデントに関しては非常に判断が難しかったことは間違いありません。

 ハミルトンからすれば行き場所がない状態で、僕もオンボード映像やスローモーションで何度か見たのですが、フェルスタッペンも隣にハミルトンがいることは分かっていたはずなので、あのステアリングの切り方や進入の仕方だと『当たるかな』ということはなんとなく想像ができたのかなと思います。フェルスタッペンからはハミルトンが見えていたはずなので、もし見えていたのだったら、もう少し違った対処ができた可能性もあったのかなと思います。

 ですが、これは結果論で、逆にハミルトンがもっと早くアクセルを抜いていれば、という意見もあるかもしれません。でもあそこまで並んでいると実際のところは判断が難しいので、やはり切り込む角度がフェルスタッペン的には急だったのかなと思います。ターン9はオフキャンバー気味でマシンがどんどんと外に流されてしまうコーナーなので2台並んで通過することは難しく、アウト側にいるドライバーとしては絶対にインに切り込みたいコーナーです。ですが、そこで入っていくと接触することは過去に何度もありました。

 実際、レース後半にシャルル・ルクレール(フェラーリ)とハミルトンがトップ争いをしていた時、同じような場面がありましたよね。その時はイン側のハミルトンが引いたのですが、アウト側のルクレールはハミルトンが引いたにも関わらずアウト側のダートに飛び出してしまいました。ターン9で2台が並ぶとああいったことが起こりやすい、とにかく難しいコーナーです。

 いずれにしても今回のリタイアでフェルスタッペンは損をしてしまいました。いろいろな意見があると思いますが、本当にチャンピオン争いをしているふたりのドライバーの魂と魂、意地と意地のぶつかり合いの結果だと思うので、僕としてはなんとも言えません。

 結果として、ハミルトンに10秒ペナルティが科されたことでトップに立ったルクレールにとっては千載一遇のチャンスがやってきて、違った意味でレースの見どころが生まれました。今回のルクレールの走りは本当に称賛に値すると僕は思いますし、素晴らしい集中力でした。特にミディアムタイヤでの走りは素晴らしかったと思います。

 また同様に、最後のハミルトンの追い上げも本当に素晴らしかった。フェラーリのマシンがハードタイヤは若干合わなくて、それに対してメルセデスのマシンはハードタイヤがすごく合っていて、ミディアムに合っていたフェラーリとハードが合っていたメルセデスと、前後半で逆転したような展開でした。

 ただ、バルテリ・ボッタス(メルセデス)もなんとかハミルトンに付いていけば、レース後半にルクレールをオーバーテイクできる可能性があることをチームも言っていてボッタスを鼓舞していました。しかし、ボッタスはハミルトンのペースについていけなかったので、やはりハミルトンの予選のように最後まで走り続けられる集中力と技術ですね。タイヤも持たせながらペースを落とさずに走り続けたので、やはりハミルトンだなというのも見せつけられました。

 最後はハミルトンが見事なオーバーテイクで優勝を果たしましたが、その瞬間の観客の盛り上がりとフィニッシュ後のハミルトンの喜びっぷりは、なんだかチャンピオンを獲ったときのような雰囲気でしたね。いろいろなことが起こりすぎたグランプリでしたが、ハミルトンにとっては母国のシルバーストンにお客さんも帰ってきて、レース中に一度厳しい状況に陥り、そこから逆転して勝利したのでエモーショナルな気分になることは当然だと思います。

2021年F1第10戦イギリスGP
多くの観客が訪れた母国イギリスGPでペナルティを受けながらも見事に逆転優勝を果たしたルイス・ハミルトン

 最後に角田裕毅選手(アルファタウリ・ホンダ)ですが、イギリスGPで苦戦を強いられたアルファタウリ・ホンダは、今回の新フォーマットの煽りを食ったチームのひとつなのかなと思います。中堅チームにとってはひとつひとつ、いろいろなことをサーキットに行って試して、確認してから組み立てていきますし、それは1年目の角田選手にとってもそうです。

 ですので、今回の新フォーマットは彼らには若干不利に働いたレースだったかと思いますが、角田選手に関しては非常に落ち着いたレース展開で、周りのペースと比較しても遜色はありませんでした。タイヤもうまく保たせ、遅めにタイヤを交換してチームの作戦どおりにレース後半はフレッシュタイヤと軽いガソリン搭載量で走ることができ、ラップタイムペースもすごく良かったです。そんないい状況を活かして、本当にやるべきことをイギリスGPではしっかりとしていました。結果としては見えづらかったのですが、すごく成長していることを感じさせるレースでした。

角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第10戦イギリスGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

 次戦のハンガリーGPはまったく違った特性のサーキットになりますし、ハンガロリンクは路面のμ(ミュー)も高くなくて路面もバンピーで、中速コーナーが多いので足の動かし方も違いますし、ダウンフォースの使い方も変わってくるのでクルマの向き不向きが変化する可能性もあります。モナコで好調だったフェラーリなど、ストリートサーキットで強かったチームがいい走りを見せる可能性もありますね。前半戦の最後ということで、本当の意味での今シーズンのマシンパフォーマンス評価を行うには一区切りできるのかなと思います。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24


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