──新たにハイブリッドルールが導入された2014年、マクラーレンはメルセデス製パワーユニットを使用し、翌年からホンダ製パワーユニットを搭載しました。今、振り返ってみるとホンダと組んだ時期が少し早すぎ、あと2、3年は暫定措置としてメルセデスを使用していた方が良かったのではないでしょうか。
「たしかに2、3年なら、妥当な解決策だっただろう。とはいえ、競争力のある優良なワークス契約というのは、そう簡単に転がっているものではない」
「だから、なんとしてでも手に入れなくてはいけないものなんだ。毎年、タイトル獲得を目指しているが、最終的には長期的な勝利を求めているわけだからね。そのためには痛みも受け入れる必要がある」
「最初にホンダと組んだ時代の話だが、1992年のモンツァで川本(信彦/元社長)さんから『この年いっぱいでF1活動を止める』と言われた時に、私はその場にいた。そして、結果がどうなったのかというと、『事前にロンには伝えていたが、彼は聞いていなかった、もしくは理解していなかった』というものだった」
「まあ、よくある話なんだけどね。私は川本さんに『ずっと勝っているし、これからも勝ち続けますよ』と伝えたが、『マーティンさん、勝つだけでは足りないのです』と返された。私は内心、『そのために、我々はここにいるんだ!』と思ったけど、今でも忘れられないやり取りだね」
「実際にホンダは1992年限りでF1活動を止めてしまったので、我々は慌てて駆けずりまわり、同年の12月にコスワースとの契約にこぎ着けた。だが、その時はカスタマーエンジンだったことに胸が痛んだよ……」
──2014年に話を戻しますが、結果的にメルセデスとは最悪の関係になってしまいましたね。
「ディーター・ツェッチェ(元ダイムラーCEO)は、ロンのことが好きではなかったからね。自分を嫌っている相手の顧客になるというのは、あまり良い立場とは言えない」
「メルセデスのカスタマーは、現在ならそれほど悪くないかもしれないが、それでもワークスチームを打ち負かすことは難しい。パワーのあるエンジンを提供してくれるはずがないし、かといってメルセデスと肩を並べて投資するような経済力もチームにはなかったからね」
