その前に、ローレンスが実権を握る直前のアストンマーティンについて、簡単におさらいしておきたい。元日産のアンディ・パーマーがアストンマーティンのCEOに就任したのは2014年のこと。
パーマーは、経営難に陥っていたアストンマーティンを立て直すため、セカンド・センチュリー・プランを立案した。
毎年1モデルずつ新型車を投入し、これを7年ひとサイクルとして、以降はフルモデルチェンジを順次行っていくというのがセカンド・センチュリー・プランの骨子で、2016年にまずDB11を発表する。
続いてヴァンテージ、DBSと既存のモデルを刷新したのち、2019年には同社初のSUVであるDBXをローンチ。



さらにミッドシップスポーツカーのヴァンキッシュ、電気自動車のSUV、電気自動車のサルーンをデビューさせるはずだった。しかし、DBXをリリースしたところでパーマーは解任。DBX以降のニューモデルはいまだ世に出ていない。

では、後を引き継いだローレンスは、なにをしたかというと、まず2台の電気自動車計画(いずれもラゴンダ・ブランドで発売されるはずだった)を棚上げ。
さらにメルセデスAMGのCEOだったトビアス・ムーアスを引き抜いてパーマーの後任に据えると、ミッドシップカー・プログラムの推進を指示したのである。

実は、カタログモデルのヴァンキッシュ以外に、アストンマーティンは、ヴァルキリーとヴァルハラという2台のミッドシップスポーツカーを限定モデルとして発売する計画を立てていた。これらはローレンスの買収後も予定どおり進められている。


ここまでを整理すると、以下のようになる。すなわち、パーマーは(1)既存のアストンマーティン・モデル(DB11、ヴァンテージ、DBS)+SUV(DBX)、(2)ミッドシップスポーツカー(ヴァンキッシュ、ヴァルキリー、ヴァルハラ)、(3)電気自動車(ラゴンダ・ブランドの2台)の3本柱をラインナップの主軸に据えようとしていたが、ローレンスは(3)を中断。(1)と(2)を今後の屋台骨とするつもりなのだ。
ただし、(2)ミッドシップスポーツカーはアストンマーティンにとって新たなカテゴリー。しかも、この市場にはフェラーリ、ランボルギーニ、マクラーレンなどの強豪がすでに存在する。
そういったライバルの間に割り込んでビジネスを成功させるにはどうすればいいのか?
その答えはモータースポーツ、それもフェラーリやマクラーレンが凌ぎを削るF1グランプリへの参戦が最適であることは論を待たない。これこそ、アストンマーティンがワークスチームとしてF1に参戦する最大の理由といって間違いない。