更新日: 2021.08.18 18:13
【中野信治のF1分析/第11戦】初優勝オコンとF1界に刺激を与えるアロンソの存在感。角田裕毅の成長と今後の課題
そのハミルトンのレース後半にはフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)との名勝負がありましたね。あのふたりのバトルは本当に見事で、4番手を走行していたアロンソとしてもチームメイトのオコンがトップにいることでいつも以上に力が入っていました。
アロンソは今回だけではなく、今シーズンここ数戦は“ファイター・アロンソ”を見せてくれていますし、あの走りは周りのドライバーに対しても刺激になります。『このドライバーはこんな感じで動いてくるから、ここで抑えれば展開が落ち着く』『逆にここでプレッシャーを掛ければ追い抜ける』ということがアロンソに限っては当てはまらなくて、『ここで来るの!?』『ここで抑えるの!?』というような走りを見せてくれます。よく周りが見えていますし、究極の負けず嫌いだと思います。とんでもない図太さ、強心臓を持っていないとあの走りはできません。アロンソの全盛期を見ている人間としては『まだまだ、こういう走りを見せてくれるんだ』と嬉しくなりましたね。
それにアロンソは他車と変に当たったりしないですし、本当にバトルがうまくて絶妙です。抑えるときはガッツリと抑えて、中途半端なことをあまりしないので接触も少ない。はっきりと何をしたいかということがアロンソはわかるので、前を走るドライバーにはそれがプレッシャーになりますし、後ろのドライバーは追い抜くことが難しい。アロンソとバトルをするドライバーはすごく勉強になっていると思いますし、今のF1界に大きな刺激を与える存在になっています。
今回、F1初優勝を果たしたチームメイトのオコンは、アロンソの一番身近にいる存在なので一番刺激を貰っているのかなという気もしています。ふたりは対極の走らせ方をするドライバーで、オコンはスーパーナチュラルな走らせ方をします。クルマに変なストレスを与えないきれいな走らせ方をするドライバーですが、もう少しクルマの限界を引き出すという部分が足りていません。
F3くらいまでなら、きれいな走らせ方でもいいのですが、F1になるとそれだけでは足りません。そこで今年、アロンソがチームメイトに来たことでいろいろなことを気づかされつつあると思うので、今回の優勝で流れを作ってほしいですね。僕はF3時代のオコンを見た時の印象が強烈だったので、『このドライバーはもっと速いはずだ』と思いながらF1を見ていました。
オコン、フェルスタッペン、そしてフェリックス・ローゼンクビストらが当時(2014年)ヨーロピアンFIA-F3にいて、たしかにフェルスタッペンはすごく光っていましたが、オコンはその当時からフェルスタッペン(/アロンソ)とは対象的な走らせ方をしていました。オコンの美しすぎるドライビングに対して、フェルスタッペンのアグレッシブさとマシンをねじ伏せるコントロール能力という、両極端の走りが今でも印象に残っています。なので、オコンはこれをきっかけにもう少し上に行ければいいなと思います。
アロンソとバトルを繰り広げたハミルトンも、アロンソのブレーキングミスを逃さずにオーバーテイクをして、接触もせずに非常にレベルの高い争いだったと思います。本当にギリギリのところで戦っていたので、このふたりだからこそできるバトルで安心して見ていられました。お互いがリスペクトし合っていることをすごく感じましたね。
その一方、気になったのがフェルスタッペンです。すごくクルマが難しい状況でしたが、かなり際どい走りをしていて、ハースとのバトルでも『それは接触するよな』という走りをしていました。僕はその部分がフェルスタッペンの今後の課題なのかなと思います。今回はいろいろなことがあってクルマの自由が効かなかったので、リスクを犯せざるを得ないこともわかりますが、相手が避けてくれるから助かったような場面もいくつか見えました。フェルスタッペンは今後、ハミルトンとチャンピオン争いをしていく流れのなかで、まだ成長しなければいけない部分があると思います。
今まで話したことも含めて、今回の夏休み前の一戦は重要な役割を果たしたのかなと思います。チャンピオン争いに関してはハミルトンとフェルスタッペンそれぞれの課題と、メルセデスとレッドブル・ホンダそれぞれの課題も見えたので、それをどう受け止めて後半戦に向かっていくかで、流れがまた変化していくのではないかなと思えた重要な一戦でした。後半戦にさらに深みが増してくるのではないかと思いましたし、他にも、もっといい戦いが見れるのではないかなとも感じましたね。そう考えると今回のハンガリーGPはいろいろな要素が見られたよいレースだったと思います。
そして最後に決勝での角田選手ですが、スタート直後のアクシデントを切り抜けて4番手に上がった時には大きく期待してしまうところもありましたが、予想以上にペースを作ることに苦労していました。レースの前半では後ろのハミルトンを抑えるためにタイヤを使ってしまいペースを落とさざるを得なくなり、前には離され後ろからは追いつかれるという本人的にも課題の残るレースではありました。
やはり、もとを辿れば今回はフリー走行1回目でクラッシュしなければもう少しクルマを作り上げることができたとも思いますし、そうなっていれば本当に違うストーリーでガスリーの前の5番手でフィニッシュできていたかもしれません。そういったことを考えると、自分からレースウイークのよい流れを作っていくためにもまだまだ角田選手はやるべきことが多くて、これは前半戦を振り返っての角田選手の課題です。
今回、決勝でガスリーとポジションを入れ替えを指示されたときは悔しかったと思いますが、ハンガロリンクはペースが早くても追い抜けないコースなので、チーム全体としてさらに上位を狙うためにはガスリーを前に出すオーダーを出さざるを得ません。角田選手はすごくフラストレーションが溜まった部分もあったかと思いますが、そこはレースウイークを通してガスリーをリードしていけば次回は逆のパターンになるかもしれません。本当にガスリーは強敵ですが、またチャンスは来るはずです。
大枠で見ると今回の決勝では大きなミスもなく、きちんとやるべきことをやったと思います。前半戦を締めくくるという部分では課題は残りましたが、これまでだと少し焦ってしまうような場面でも今回は焦らずに抑えて我慢して走っていたところは見えたので、何度も言いますがタイミングで来るまで待つしかないのかなと思います。次に同じようなチャンスが来たときにそれを自分のものにするためにも、いい意味で前半戦の集大成だったのかなと思います。
練習走行でのクラッシュというミスもありましたが、レースをきちんとまとめてポイントを獲得したことは大きいと思います。特に今回は荒れた難しいレースだったので、確実にゴールまでクルマを運んだというのは成長だと思います。角田選手にとっては成長と課題が半々で残った前半戦だったと思いますが、夏休み前にいろいろな課題を見つめ直すという部分では、非常に深い意味のあるレースだったのではないかなと思います。
<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
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