残念ながら決勝レースはセーフティカーランで、最終的には3周で終わってしまいました。そもそもスタートディレイになることは明白で、スタート前の時点で路面にかなり水がありましたから、フルウエットでも走るのは厳しいし視界も非常に悪くなることは明らかでした。僕はグリッド上で「スタートを何回か遅らせて、セーフティカーの後ろでフォーメンションラップを数周してからスタート中断になるだろう」と最初から両ドライバーとチームのみんなに伝えていました。それしか方法がないのは明らかだったからです。
問題はその後の中断の長さですよね。3時間です! しかしこの間中、レーダーを見ても状況が好転する兆しはまったくありませんでした。サーキットのすぐ上にあった雨雲はどこにも動いていなかったですし、それが動き出す気配が見えた時には北東から新しい雨雲が来ていましたから。
レースディレクターがどうしてもレースをやりたかったのは痛いほどわかります。しかし状況が好転する兆しがなかったことも確かです。3時間後にセーフティーカーの後ろでレースを始めるくらいなら、もっともっと早い段階でやるべきだと個人的には思います。実際に18時過ぎにコースに出ていった時の状況は、15時25分にフォーメーションラップを開始した時よりも悪かったですから。なんとかレースをやろうとした気持ちはよくわかるのであまり批判はしたくないのですが、あのレーダーを見て何を期待していたのか僕にはイマイチわかりかねます。どうにか状況が好転することを祈っていたのでしょうけど。。。

またフルウエットタイヤでのレースは、ほぼあり得ないとも思っていました。なぜかと言えば、フルウエットはあまりにも作動範囲が狭く、フルウエットを履かなければいけばいような水量ではレースはできない(視界も悪く危険すぎる)と思っていたからです。もしインターで走れる状況になってレースが行われた場合は、とにかく大きなミスをせずにコース上にとどまって走り続けることだけに集中するようにと両ドライバーには伝えていました。
残念ながら今年のウチのクルマでは速さで勝負することはできないので、他のドライバーがリスクをとった末にコースオフするような状況でない限りポジションを上げることが難しいからです。後ろ向きととらえられるかもしれませんが、厳しい現実を見つめた時に唯一の可能性はこれしかないんです。
長い中断中はレーダーを頻繁に確認していましたし、レースが仮に今再開されたらどう出るかなどを常に考えていて、レギュレーションの該当する部分を読み返したりもしていました。あとはメカニックにお茶を作ってあげたり(笑)。またウチのピットウォールのすぐ近くにセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)のクルマが止まっており、セバスチャンのメカニックのひとりは良い友人なので、彼のメカニッククルー全員にもお茶とケーキを持っていったらとても喜ばれました。
またセバスチャン自身もウチのスペアガレージのなかでミックとミニサッカーをしたりして遊んでいました。個人的な話ですが、セブはイギリスGPの際に僕の子供たちが通っている小学校に話をしに来てくれたんです。その時に学校の子供たちが本当に喜んでいたので、その時の話なんかもちょっとしました。
次戦はオランダGPです。36年ぶりの開催とはいえ新たにカレンダーに加わったということで、ザントフォールトをシミュレーターで走りはしましたが、ウチのシミュレーターはそこまで高いレベルではありません。これはまだまだ開発していかなければいけないエリアのひとつです。チームとしては通常のシミュレーションからサーキットの特性を学んで、妥当なイニシャルセットアップを出しています。レースでの追い抜きは難しいと思いますが、コースはかなりうねっていてドライバーのラインの取り方などもおもしろいと思いますし、タイヤにもとても厳しいので見どころ満載の週末になると思います。

