Text:Luis Vasconcelos<br>Translation:Kenji Mizugaki

──無限ホンダの人々とのミーティングは、あなたが経験したプジョーやルノーのミーティングとはどこか違うところがあったのでしょうか。

「日本の人たちは、いつも規律正しく組織立っている。ミーティングでも、思い付きで何かを言って、周囲の反応を見るようなマネは絶対にしない。言おうと決めていたことを言い、やろうと決めていたことをやり、その枠から踏み出したりはしないんだ。そして、たとえ少し違う考えを思いついたとしても、間違いないと信じていることだけを言う。だから、彼らとのコミュニケーションでは、こちらも明瞭かつ簡潔に伝える努力を心掛けないといけない。大演説を打ち上げる必要はない。あくまで基本的なことを重視し、脇道に逸れないようにするんだ」

「けれども、彼らの本心を理解するのは簡単なことではなく、彼らが何を望み、何を目指しているかを完全に把握するには、ミーティングが終わった後も対話を続けていく必要がある。なぜなら、日本の人たちは相手方への敬意から遠慮をしがちで、面と向かって『あなたは間違っている』とは言わないからだ。こちらとしては、彼らに言われた内容から推測して、そのあたりを正しく見極めないといけない。これには時間がかかるし、忍耐も求められる。彼らと絶えずコミュニケーションを取り合う心掛けが重要だという理由はそこにあるんだ。ヨーロッパの人間はもっとダイレクトで辛辣だが、日本人は対立を好まず、『あなたは間違っています』と正面から直接的に言うことで、相手を怒らせたくないと思っているから」

──1999年にはハインツ-ハラルド・フレンツェンがジョーダン・無限ホンダで2勝を挙げ、ドライバーズ選手権3位に入りました。その翌年にチームに加わったあなたは、同じように勝てるクルマを与えられず落胆したのではありませんか。

「そうだね。1999年のジョーダンは本当に速くて、彼は残り2戦というところまでタイトルを勝ち取る可能性を残していた。先ほども言ったように、2000年のクルマにはリヤタイヤの消耗が早いという弱点があり、もうまるで勝ち目はなかった。そして、彼らのシャシーはメカニカルな問題もいくつか抱えていて、それによるリタイアがあまりにも多すぎた」

──あなたの無限ホンダ時代のハイライトは、どのレースでしょうか? プロストとジョーダンの両方について聞かせてください。

「パニスの代役としてシーズンの半分をドライブした1997年では、やはりオーストリアGPだね。それがプロストでの2年半を通じて、一番のハイライトでもあると思う。1997年のタイトルウイナー、ジャック・ビルヌーブを抑えてレースの約半分をリードしたのに、エンジンがブローアップして私の希望は文字どおりに煙となって消えた」

「予選はTカーで3番手につけた。それも最後の1周でね。レースのスタートは文句なしで、その直後にミカ・ハッキネンのエンジンが壊れて、私がレースリーダーになった。そして、タイヤのグリップが落ち始める前にジャックとの差を広げていたのだが、ピットストップで逆転されてしまった。ピットに入る前の数周のペースがあまり良くなかったんだ。あのレースでは、スチュワートのルーベンス・バリチェロも、同じ理由でジャックに抜かれたはずだ。だけど、ルーキーがもう少しでワールドチャンピオン候補に勝ちそうになったのは、それだけでも大したことで、私がF1の世界で名を上げる機会にもなった」

「ジョーダン時代になると、残念ながらハイライトは予選に限られる。けれども、ドライバーの腕が物を言うモナコやスパ・フランコルシャンのようなサーキットで、私はフロントロウのグリッドを獲得し、フレンツェンにも大きなタイム差をつけた。あの2年間では、それが最高の思い出だね」

──では、最後の質問です。「無限ホンダについて話してほしい」と言われた時、あなたが真っ先に思い浮かべるのはどんなことですか。

「まず、ホンダまたは無限ホンダとして、彼らはF1の歴史に大きな足跡を残した。そして、ホンダの第一期活動から数えれば長い年月にわたって、このスポーツと選手権を何度となく完全に制覇した。つまり、彼らはこの世界で大事なことを心得ていて、信じられないほど有能で、どうすれば勝てるかを知っている人々であり会社なんだ。私が思い浮かべるのは、まあそんなところだね。彼らはもっと多くの称賛と尊敬を集めて然るべきだと、私が常々思っている理由もそこにある」

ヤルノ・トゥルーリ
2000年、ジョーダンに移籍し、再び無限ホンダエンジンを操ることとなったヤルノ・トゥルーリ

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 ヤルノ・トゥルーリは、いまだに坂井典次と再会するたびに「お前のせいで初優勝を逃した」と笑いながら語るのだという。

 現在発売中の『GP Car Story Special Edition MUGEN HONDA 1992-2000』では、今回お届けしたヤルノ・トゥルーリのほか、オリビエ・パニス、ジョニー・ハーバートのインタビュー、鈴木亜久里&坂井典次、そして無限創業者の本田博俊&橋本朋幸M-TEC社長の対談や、さらには現存する無限ホンダ・エンジンをバラしての解説企画など読み応えある企画が満載だ。

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9月8日発売の『GP Car Story Special Edition MUGEN HONDA 1992-2000』
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