Shinji Nakano / autosport web

 今回はどちらかというとノリスの方が攻めた走りをしていたので、タイヤが厳しかったのかなと思います。ノリスはレース中に「リカルドのペースが遅い」ということを無線で言っていて、フラストレーションも溜まっていたと思います。ですがリカルドは後半に向けてタイヤマネジメントをしていたわけで、最終的にはリカルドにファステストラップも獲られ、フィニッシュのときには距離的にも少し離されてノリスにとっては完敗でした。モンツァではリカルドの良いところが全部出ていましたね。

 ノリスも悔しかったとは思いますが、頭を切り替えてレース後には「今回はリカルドのレースだった」と認めて、自分にもチャンスはまだまだこれから来るということで自分を納得させてポジティブにレースを終えていました。そう考えるとマクラーレンのふたりはすごく良いコンビですよね。若くてイケイケで速いノリスに対し、リカルドはすごく苦しい時間を過ごしていたと思うので、そういった意味ではリカルドにとって良いコンビかは分からないですが、チーム全体として見ると良いコンビだと思います。

 トップチームというのはひとりをナンバーワン、もうひとりをナンバーツーという形に必ずなってくるので、そうなったときに、あえて『ノリスをナンバーワン』と言うのならば、リカルドはチームにとって、そしてノリスにとってもすごく良いパートナーだと思います。経験豊富でレースでも確実な仕事をするので、マクラーレンというチームにとっては理想的な組み合わせです。みんなあまりこの部分に気づいていなくて『リカルドが可哀想』となってしまいますが、チームにとっては最高の組み合わせになっています。

 ただ、マクラーレンの流れは良いと思いますが、まだ課題もあります。前戦のオランダGPでもそうでしたが、ダウンフォース量が多くて直線がそれほど長くないサーキットに行くとまだ強さを発揮できていません。 ダウンフォースが少ない状況のなかではサスペンションの動かし方などのスイートスポットがピタッと合っていますので、ストレート重視のセットアップというよりも、マクラーレンのクルマ自体がもともとがそういった部分を狙って作られている気がします。マクラーレンのマシンは少しサーキットを選ぶ特性がありますね。

 そして今回のモンツァではやはり触れなければいけないのは、決勝でのハミルトンとフェルスタッペンの接触です。レッドブルがフェルスタッペンのピットストップで大きくロス(約11秒)たこともあって、あの2台が並んで第1シケインに入っていくタイミングが起きたわけですが、お互い難しい判断だったと思います。最終的にFIAはフェルスタッペンに対して次戦の3グリッド降格ペナルティを科しました。ただ、僕も見ていて微妙な気持ちになったのが正直なところで、レーシングアクシデントなのかなとも思います。

【動画】第1シケインでのハミルトンとフェルスタッペンの接触シーンと両者のコメント

 フェルスタッペンは「ハミルトンがスペースを残してくれなかった」という主張でしたが、実際はあのポイントでハミルトンがスペースを残すのは難しい状況でした。コーナーに入っていくときにはハミルトンが若干前にいましたし、さらに狭いターン1での横並びということで、チャンピオン争いをしているハミルトンが『はいどうぞ』という感じでフェルスタッペンにスペースを譲るわけがない。

 そう考えると難しい問題でした。正直『当たらずに行けるかな』とも僕は思いました。おそらくハミルトンとフェルスタッペンもそう思ったはずですが、運が悪かったのはフェルスタッペンがシケインイン側、縁石の先のソーセージ縁石に乗ってしまったことです。フェルスタッペンがソーセージ縁石に乗って跳ねてしまったことでクルマが予測できない動きをしてしまい、制御不能となってハミルトンにぶつかっていました。

 接触を避ける手段としてはターン1を直進するという手もあったのですが、あそこでハミルトンに前に行かれてしまうと、フェルスタッペン的には、今回はクルマが決まっているハミルトンに前に行かれると再度追い抜くのは難しいと分かっている。ハミルトンとしてもあそこで抑えておかないと、モンツァは抜きづらいサーキットなので抜けないので、もう当たるしかない状況ではありました。両者がお互いの状況を分かっているだけに、もうまったくシルバーストン(イギリスGP)での接触と同じ状況ですよね。

【動画】ハミルトンとフェルスタッペンの接触シーン、お互いの車載映像

 ただ、シルバーストンでもそうでしたが、今回も『当てにいく』という感じではなく、ギリギリのところで何とか並んでいけるかなと思ったらフェルスタッペンがソーセージ縁石でクルマが跳ねてしまったという感じです。ですのでフェルスタッペンに対してのペナルティも次戦3グリッドダウンという比較的軽いものなので、とりあえずFIAとしてはペナルティを出さざるを得なかった。

 そしてどちらが悪いかということになったとき、やはりぶつけた側のフェルスタッペンになります。あとはコーナーに進入したときにはハミルトンが若干前だったので、優先権はあくまでもハミルトンにあった……というようなペナルティだと思います。レッドブルもペナルティを受け入れているので、そのことを理解していると思います。ただ、今回大きかったのは、ハミルトンとフェルスタッペンのどちらかが生き残って優勝したわけではないので、シルバーストンのような舌戦にはならなかったですね。

 そして最後に角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)選手ですが、今回は本当にどうにもならなかったといいますか、流れが本当にないなと思いました。予選でのトラックリミットによるタイム抹消の件もそうですし、決勝スタート前のトラブルも『メカニカルトラブル』ということで全体的な流れがなかったですね。

 スタートできなかったことに関しては、今回は角田選手のフォールト(過失・失敗)ではないので可哀想ではありますが、今回はちょっと流れがなかった。2022年の残留契約も決まりましたが、来年があることで今季まだまだ思いっきりやれる部分がある一方、前半戦でいろいろと学んだこと、周りからもいろいろと言われたことが多いかと思います。

 アプローチの仕方を角田選手なりに変えていると思うので、今は変化の過程なのだと思います。もともとのイケイケスタイルで行った方が良い部分もあり、一方でちょっと葛藤している部分もあると思いますが、ここを乗り越えていかないと本当の一流ドライバーにはなれません。もともとも持ち前の速さ、タイヤの使い方のうまさというのを本当に活かせるところまで今はできていないので、早くそのタイミングが来てほしいと思います。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24

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