エナジーストアの開発は、非常に長い時間を要する難しい作業であるとして、ホンダは特殊な状況を次のように説明した。
「ESは、高電圧・高出力といった特殊要件が求められることから、開発や製造に際して専用の治具や組立設備の環境構築が必要になります。化学製品としての特性から、レースでのクラッシュ時における安全性確保について多岐にわたる検証テストが行われ、航空機輸送のための認証取得もあるなど、その他のパワーユニットコンポーネントに比較して、非常に長い開発期間を要します」
エナジーストアの設計、テスト、解析、組立製造を行ったのが、英国のミルトンキーンズに拠点を置くHRD-UKのプロジェクトチームで、本田技術研究所(先進技術研究所)や本田技研工業(四輪事業本部ものづくりセンター)の量産事業向けバッテリー開発チームから全面的な開発支援を受け、「ホンダF1にとって最後の一大プロジェクトを成就するべく」懸命な取り組みがなされたという。「今季のチャンピオンシップ獲得という大きな夢を叶えるため、まさにホンダの総力を結集して取り組み、8月中の投入を果たすことができました」とホンダは言う。
レッドブル・レーシングは、ホンダのパワーユニットを引き継いで2022年以降もレッドブルおよびアルファタウリで使用していくことを決めた。そのため、パワーユニット部門レッドブル・パワートレインズを設立、今後の開発作業を行うための準備が、現在進められているところだ。ホンダは「こうして完成した新型ESですが、その効果は今シーズンだけでなく、2022年はレッドブルへと引き継がれていきます。そうした意味でも、ホンダにとっては現在のパートナーシップだけでなく、将来への想いを込めたものだったとも言えるプロジェクトでした」と述べている。

また、その効果はF1だけにとどまらず、さらに幅広い分野に影響をもたらすという。
浅木氏は「この新バッテリーセル(エネルギー)技術は、F1活動終了後も、レース以外においても『移動』と『暮らし』の新価値創造によるカーボンニュートラル社会の実現という、ホンダの将来技術に大きく貢献していくことになります」と言う。
ホンダは「この技術を、『F1でワールドチャンピオンを獲得した技術』と言えるようにする、それが今のホンダF1の目標です」として、今季選手権制覇への強い思いを改めて示した。
第14戦イタリアGP終了時点で、ドライバーズ選手権ではフェルスタッペンが226.5点で221.5点のルイス・ハミルトン(メルセデス)をリードしている。コンストラクターズ選手権では、メルセデスが362.5点、レッドブル・ホンダが344.5点と、その差は18点だ。
