ニキータがFP2、3を走れなかったので結果的にチームはミックひとりのデータに頼ることになりましたが、今回はチーム全体として満足のいくデータが採れました。本来FP2ではニキータがハード、ミックがソフトで走る予定だったので、ミックは予定通りソフトでロングラン。この時こちらからは「ここのコーナーではこういうふうに走ってほしい」などといろいろな指示を出したのですが、ミックはそれをきちんと実践し、かつタイムを落とさずに走ってくれました。おかげで質の高いデータを採ることができてタイヤの理解も進みました。すごく地味な作業ですが、これを今までで一番よくやってくれました。
このデータががあったからこそ日曜のレースでしっかり走れたのです。これまで何度かコラムにも書きましたが、ミックはFP2のランが遅くて、レースになってからペースが上がることが何度かありました。こうなるとせっかく集めたFP2のデータがレースであてはまらないのです。今回はこの反省点を活かして、金曜からいい仕事をしたのがレースに繋がりました。

レース戦略については、計算上は1ストップの方が速いというのが明確でした。ただ1ストップだとタイヤの磨耗がギリギリになるので、ピットストップできるタイミングがかなり狭くなります。早めにピットインすると第2スティントでタイヤが保たなくなるし、第1スティントを伸ばしすぎるとタイヤがダメになります。だから1ストップ戦略のために「◯周目にピットインしよう」と決めてレースをすると、そこに到達するまでにタイヤを労わる必要があり、ラップタイムがどうしても落ちます。これでは今のウチのクルマではまったくレースになりません。
ですからレースではFP2と同じように走って、その結果1ストップでいけそうなら1ストップ、ダメそうなら2ストップとレース中に判断する形をとりました。このやり方がうまくいきました。ソフトでスタートしたミックはいいペースで走れていたので、アルファロメオの2台が1回目のピットストップを終えた段階ではそれをカバーするためのピットインはせず、その後ウイリアムズ勢がタイヤを交換したタイミングでもタイムが落ちていなかったので引っ張り続けました。
その後、9周目にタイヤ交換を行った角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)選手が追いついてきそうだったので、彼に抜かれる際のロスを避けるために22周目にピットイン。コースに戻った後の青旗もマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)だけでした。コース上の状況とタイヤの磨耗状況を見てピットインさせましたが、これ以上ないタイミングだったと思います。
残り34周をミディアムで走りきるのは大丈夫だとは思っていましたが、結構ギリギリだというのも理解していたので、ミックにはいくつか指示を出し、彼もそれを守ってくれました。この第2スティントではタイヤを労わりながら走り、2ストップのアルファロメオ勢に抜かれてもパニックにならず、最後はタイヤがダメになっていたニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)や彼の後ろで詰まったアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)も抜けるだろうという感じでした。結局ラティフィはタイヤのパンクでリタイアになり、その影響でVSCが出たのでジョビナッツィにも追いつけず……。最後の最後にはセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)の青旗もありました。タラレバですが、VSCと青旗がなければミックはジョビナッツィを抜いていたと思います。

ウチのクルマはアルファロメオやウイリアムズよりも遅いですが、そのクルマで彼らと勝負ができたのは、1ストップ戦略をしっかりと実行できたからです。そしてどうしてそれができたのかといえば、きちんとFP2を走ることができたからです。レース後にはチームのみんなにもミックにもそう伝えましたし、会心のレースでした。
それからカタールではフェルナンド(・アロンソ/アルピーヌ)が久しぶりに表彰台に乗りましたが、やっぱり彼はドライバーとして本当にすごいなと思いましたね。アルピーヌには今も仲のいいスタッフがたくさんいるのでよかったです。それと同時に、僕らもまた彼らと戦えるところまで戻らないといけないな、と実感した次第です。

