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投稿日: 2021.12.08 15:45
更新日: 2021.12.08 15:55

元F1王者ジャッキー・スチュワートが語るチーム運営「SF3のあの勝利は私への贈り物」


F1 | 元F1王者ジャッキー・スチュワートが語るチーム運営「SF3のあの勝利は私への贈り物」

 今あらためて思うのは、ウチにはそれだけいい人材が揃っていたことだ。それがすべてなわけだよ。クルマを設計、製作、そして広報活動から旅行の手配その他、F1チームを支えるすべての任務について同じことが当てはまる。

 アラン・ジェンキンスはものすごく独創的だった。一度出向のようなかたちでアメリカズカップの助っ人へ行ってもらったが、先方のリクエストが振るっていた。型にはまらない発想ができるデザイナーを貸してほしいとね。まさにピッタリだろ。一方のゲイリー・アンダーソンは、地に足の付いた堅実なアプローチが持ち味。もちろん腕は超一流。

 管理部門の面々もこれに負けず劣らず優秀だった。運営やコマーシャル関連の人材に恵まれたおかげで、私もスポンサーの交渉や打ち合わせをスムーズにこなせた。短時間でこれほどの成果を挙げたチームは他にないんじゃないか、あったら教えてほしいものだ。

 私たちがひとつもミスを犯さなかった、と言ってるわけじゃない。1998年のカーボン製のギヤボックスは、やってはいけないことをやってしまった典型だ。あるとき、空港でたまたま顔を合わせたミハエルから、「ギヤボックスにカーボンを使うなんてどうかしてる」と言われたことが忘れられない。当時の技術レベルからして彼の意見がたぶん正しいが、私はアイデア自体は間違っておらず、資金を投入し最後までやり遂げれば必ずアドバンテージになると信じていたんだ。

 有力チームは我々の2~3倍の予算で戦っており、ただでさえ厳しいのにああいうミスを犯せば勝負は目に見えている。というわけで2年目の我々は、強豪との力の差にきりきり舞いさせられた。あの頃は意識しなかったが、後にフォードに身売りする理由のひとつにこの一件があったことは間違いない。巷に言うところの“寄らば大樹の陰”を、心のどこかで納得していたわけだ。

 とはいえ我々は新参チームとしてはスポンサーに恵まれていた。中でもHSBCは最高のスポンサーで、サーキットで大々的にコマーシャルキャンペーンを打ったり、それは力が入っていた。言っておくが、彼らを引き入れたのは私だからね。他にもマレーシア政府、テキサコ、ブリヂストンといった世界を股に掛ける多国籍企が積極的に関わってくれた。新興チームがあそこまでの支援を受けた例は、おそらく他にはないはずだ。

 フォードが我々のためにエンジンを生産してくれたことも忘れてはいけない。我々はその当時ですでに40年ほどの付き合いだった。極めて緊密で、そこで知り合った人たちとはいまだに交流が続いている。これも私が誇りに思うことのひとつだ。ヘイズのほか、ヘンリー・フォード2世やエドセル・フォードとも親しくさせてもらっている。

 それにしても彼らの事業に比べたら、我々のやっていることはまるで“ミッキー・マウス”さ。取るに足らないお遊びで、そこに投じる金額だってはした金。我々のチームは一度も赤字にならなかったと言ったね。それはつまり、損をしなかったという意味で、決して大儲けしたわけじゃないし、もとよりそのつもりで始めたことでもない。少しでも利益が出れば、それで新しい機械を購入するとか、すべて設備投資に回していたんだ。

 チームとして苦難の時を過ごしたことは何度もあるが、幸いにして財政難だけはなかった。2年、3年とやっていく間に、とりあえず受け入れてもらってはいるけれども、それはいわばカッコ付きの容認なのだということに気づいた。この先もずっとエントリーが保証されているわけではない、ということさ。

 バーニー・エクレストンとマックス・モズレーは、シーズンを全うするだけの資金が我々にあるとは考えておらず、我々の参戦を一種のジョークととらえていたんだ。それにしちゃ随分活躍したもんだろ? 当時を思い返すと今でも腹が立つ。それくらい見下されていたんだ。

「資金を出してくれる会社があるなら、会長でも社長でも一筆書いてもらって持ってこい」とまで言われた。そうすればウチの財政がどこまで保つか分かるって寸法だ。私が知る限りそこまで要求されたチームは過去にはない。我々のバックに付いていたHSBCは、当時世界最大とも言われた銀行で、そのCEOともあろう者が、たかがF1風情に念書をしたためねばならなかったんだ。フォードにしてもそれは同じ。いったい自分を何様だと思っているんだか。

ルーベンス・バリチェロとジャッキー・スチュワート
ルーベンス・バリチェロとジャッキー・スチュワート
スチュワート・グランプリのSF3を駆るジョニー・ハーバード
スチュワート・グランプリのSF3を駆るジョニー・ハーバード

■バリチェロの涙


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