フェラーリは2022年の新しいレギュレーションに合わせて作り込んできたマシンがうまく機能しているというのと、あとはパワーユニットがすごく最適化されていて、何かいい部分を見つけたのだなと感じました。同じフェラーリ・パワーユニットを使用するアルファロメオとハースも速さをみせているので、パワーユニットの面でも全体的に使いやすくなっているなと感じました。
走りの部分では、フェラーリのマシンはすごく回頭性がよい特徴が見れました。今年のクルマはブレーキングが難しく、これは18インチになったタイヤに起因する部分と、新レギュレーションのグランドエフェクトによる影響というふたつが理由なのですが、低速コーナーに関してはリヤタイヤが少しグリップが強すぎる印象があり、どうしてもブレーキングした後にマシンを押してしまうような感じがあります。マシンの重量増の影響もあるかと思いますが、そうなると車体のダウンフォースがブレーキングした瞬間に抜けてしまいます。
そこでブレーキを抜いたときにクルマが少しアンダーステア傾向になるのですが、そのときにリヤタイヤが強い印象があり押されてしまう。この2点の部分でブレーキがロックしやすいのですが、そこでブレーキを戻したときに回頭性がよければフロントが入っていきます。コーナリングではブレーキを戻してからアクセルを踏み始めるまでの空走区間が必ずあるので、そこでクルマが曲がっていくのが理想ですが、今年はその空走区間でクルマを曲げることに、どのチームも結構苦しんでいました。
そのなかでも、テストの時からフェラーリはよく曲がっているなという印象がありました。今回の予選後に改めて映像やデータを見てもフェラーリのマシンは本当に曲がっていました。それこそ一時のメルセデスのように回頭性がよく、予選2番手のフェルスタッペンに比べてもステアリングの舵角がかなり少なかったです。
この予選を見たときから、決勝でもフェラーリは絶対に強さをみせるだろうなという印象がありました。クルマの回頭性がよいとタイヤに無理をさせなくていいのでタイヤの保ち、マネジメントも楽になります。だからこそ、優勝したルクレールはセオリーどおりのクレバーなレース運びができましたし、それができるということはクルマが決まっているということでもあります。
今年のクルマはマシンが跳ねてしまうポーパシング(バウンシング)現象があります。跳ねないようにしながら快適性を取ると、どうしてもクルマが遅くなってしまいます。対して、セットアップの部分で速いマシンを作っていこうとすると乗り心地が悪くなる傾向があります。そのふたつのどちらを取るかという部分でドライバーとエンジニアは悩んでいたと思います。
ですが、フェラーリに関してはそのあたりを見事なくらい決めてきていました。今年のクルマのセットアップはスイートスポットがかなり狭いと思いますが、フェラーリはそこで何かを見つけたのだと思います。
そして開幕戦のトピックとしてはもうひとつ、ケビン・マグヌッセン(ハース)やアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)など、復帰組のドライバーがチームメイトより速さをみせるシーンが印象的でした。その大きな理由のひとつはクルマが新しくなっていることです。
昨年のマシンに乗っていないので厳しいのではないかという予想とは裏腹に、これまでのマシンとはまったく違ったアプローチが必要となり、これまであまりマシンに乗っていなかったドライバーの方が逆に乗りやすいといいますか、マシンコントロールの部分でこれまで“10”の限界で攻めていたところを“9”くらいで走らないと逆にタイムが出せないような雰囲気がありました。
攻めきってしまうとクルマは跳ねるしブレーキもロックして曲がらない。そういった部分で、ひさびさにF1復帰したドライバーは攻めきれなくてどうしても8~9割くらいで走ってしまいますが、そのことが逆に良かったりするみたいなところもあるのかなという風に見えました。
最後になりますが、角田裕毅(アルファタウリ)選手に関しては、フリー走行3回目に油圧系のトラブルで走行できなかったことは本当に痛かったと思います。今年の新レギュレーションのクルマになった開幕戦で1セッション走れないというのはかなり大きな痛手です。それでも、その状況のなかで気温が下がったところでのクルマが良くないというコメントもあり、悪いことが重なってしまったことで予選は残念ながらQ1敗退(予選16番手)という結果になりました。

そこで気落ちして決勝で乱れてしまうのか、それとも昨年一年間学んできたことを活かして確実に順位を上げていくのか注目して見ていましたが、角田選手は後者の方でした。スタート直後の混乱もうまく避けて順位を上げて、見事にタイヤもマネジメントしました。本当に昨年学んだことをきちんと形にして、結果としてレッドブル・パワートレインのパワーユニットを搭載した4台のなかでひとり生き残り、きちんとポイントを獲ってきたことはかなりの価値があると思いますし、今後に向けての自信にもつながると思います。
第2戦は1週間後にサウジアラビアGPがありますが、現時点の勢力図を考えるのはすごく難しいです。フェラーリの1強なのか、レッドブル、メルセデスを加えた3強と言うべきか。開幕戦だけを見ると正直フェラーリが強いのですが、先ほども言いましたが今年のクルマはスイートスポットがかなり狭いと思いますので、サーキットの特性によってスイートスポットが合う/合わないが出てくると思います。
第2戦もフェラーリが強いことは間違いないと思いますが、サーキットとの相性によるポジションの入れ替えは起こる可能性があります。開幕戦で低迷気味だったメルセデスも何かを見つけてくると思いますし、まだ23戦のうちの1戦が終了しただけなので、そういった意味ではメルセデスは絶対にどこかで上がってくると思います。
そして、中団勢でもそれこそハースやアルファタウリ、アルファロメオといったチームが、どこかでスイートスポットに合うようなクルマを作り上げて上位に来る可能性もあります。そうなると展開がまた読めなくなってきますね。
<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
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