更新日: 2017.01.03 13:07
【特集:F1の人気向上策を考える】「スプリントレース化」でファンの心をつかめるのか
■短縮版スポーツが人気なのは確か
どんなスポーツでも、「短縮版」が娯楽として受け入れられやすいのは間違いない。イギリス人以外にはわかりづらい例えで恐縮だが、約2時間半で終了するクリケットの「トゥエンティ20」マッチの観戦は、確かに楽しい夕べの過ごし方になりうる。トゥエンティ20ではほぼ一球ごとにドラマがあり、その点において、球数に制限がなく、食事とお茶の休憩を挟んで1日6時間の試合を5日間続ける伝統的な「テスト・クリケット」とは対照的だ。
また、プレミア・リーグ・ダーツも、セット数を減らして試合時間を短くすることで、大勢のファンを集めることに成功してきた。スヌーカー(ビリヤード)でさえ、競技者に時間制限を課したシュートアウト・トーナメントを導入しているほどだ。
それでもなお、クリケットではテスト・マッチが、ダーツやスヌーカーでは従来のルールの世界選手権が、それぞれの世界の頂点として存続している。結局はそれらの方がファン層が厚く、忠実な観客に支持されているからだ。
そして、短縮されたフォーマットのゲームは、どちらかと言えば、毎試合欠かさずに観るというよりも、気が向いた時に観戦するといった雰囲気のイベントだ。一方、テスト・クリケットはF1と同様に、観客にもある程度のコミットメントを要求する。
トゥエンティ20もひとつのカテゴリーとしては良いものだが、それが成功すれば引き換えにテスト・クリケットが廃れても構わないというものではない。テスト・マッチは、まったく違う種類のスキルが求められるスポーツなのだから。
具体的に言えば、前者では自分のショットに自信を持ち、短い時間枠内にリスクを取らなければならないのに対し、後者ではきわめて高いレベルの集中力、スタミナ、そして長時間に及ぶゲームを把握する能力が必要だ。
■本当の意味で最高レベルの技能を競い合うレースとは言えない
グランプリ・レースを上位のポジションで完走するのは、一般の人が思っているよりずっと難しいことであり、ひとつの特殊技能とも言える。シンガポールの夜間照明の下で、2時間にわたって集中力を保ち続け、あるいは高温多湿のマレーシアで、たとえドリンクボトルが途中で壊れても、レースを最後まで走りきるのは、本当にキツい仕事なのである。
たとえば、レースを14位でフィニッシュしたドライバーのコメントが、優勝者と同じくらい満足気に聞こえることがある。それは、彼が最善の結果を得るために、自分にできることはすべてやったと感じているからにほかならない。
GP2のようにもっと短く、激しいレースでは、求められる技能も違ってくる。ドライバーはより多くのリスクを取らざるをえず、結果としてミスも増えるだろう。よって、その意味では「面白く」なるかもしれないが、そうなると本当の意味で最高レベルの技能を競い合うレースとは言えない。
2016年のGP2のスプリントレースでは、確かにすばらしい勝負が何度か見られた。しかし、大部分のF1ファンが見たがっているものがそこにあるのなら、彼らはF1ではなくGP2を観に行けばよいことになるが、実際にそうするファンは少ない。
この記事は国内独占契約により英 AUTOSPORT.com 提供の情報をもとに作成しています