そして決勝ではポールポジションのペレスがトップをキープする展開ながら、ピットタイミングでのセーフティカー導入に泣いてしまいました。今回のペレスは本当に乗れていましたし、ペレスのドライビングスタイルにクルマが本当に合っていて、ブレーキをあまり強く踏まずにダウンフォースが少ないという、攻めよりも丁寧さを求められるサーキットの特徴もペレスに合っていました。
2022年のクルマとタイヤもピーキーなのですが、リヤがしっかりしていて基本的なバランスはアンダーステア傾向に見えます。昨年までのリヤが軽めなピーキーなレッドブルのマシンから、新レギュレーションになってリヤがしっかりしているクルマになって、ペレスのドライビングに合ってきたのだと思います。
ペレスはタイヤマネジメントがうまいドライバーなので、セーフティカーが入っていなかった時のレースが見たかったですね。今年のクルマは前のクルマに近づきやすくなっているとはいえ、オーバーテイクは簡単ではありません。どのくらいタイヤを労りながらフェルスタッペンとシャルル・ルクレール(フェラーリ)が争っていたのかは正直分かりませんが、前半のペレスの集中力は素晴らしかったので、そのまま最後まで走りきっていれば、勝てる可能性は十分に感じさせてくれました。
ペレスは本当に運が悪いタイミングでセーフティカーが入ってしまい順位を落としてしまい、そこから気落ちしてしまうのかなとも思いましたが、そこから諦めずプッシュしていました。ですが、トップ争いのルクレールとフェルスタッペンの集中力も流石で、昨年のハミルトンとフェルスタッペンの争いを見ているようなバトルでした。いずれにしてもペレスは、2022年マシンの特性がポジティブに働くのでパフォーマンスを上げるドライバーだと思います。逆に今年のクルマではフェルスタッペンは自分の良さを少し出しづらいのかなと感じます。
そのフェルスタッペンとルクレールのトップ争いですが、最終コーナー前のDRS検知ゾーンでポジションを譲り合うというすごく不思議なバトルが展開されました。あのアクションは最終コーナー手前にホームストレートのDRSを検知するラインがあるので、そのラインにどちらが先に入るかでホームストレートでDRSを使用できるかが決まります。先に検知ゾーンを通過すると後ろのマシンにDRSを開かれて抜かれてしまうので、お互いが『先に行って』という譲り合いが起こりました。
【動画】フェルスタッペンとルクレールのDRSを譲り合いつつのトップバトル
あのシーンを見ていると『えっ!?』というようなイメージを持ったかもしれませんが、DRSを使用する現代マシンならではの戦いで、どこでオーバーテイクするかというお互いの作戦です。最終コーナーでオーバーテイクをしても1コーナーまでにまた追い抜かれてしまう、最終コーナーで真後ろに付かれると1コーナーでオーバーテイクされてしまうということがあり、マシンとドライバーの実力が拮抗しているとそういったことが起こりえます。
ジェッダは追い抜きがしづらいサーキットですが、ホームストレートだけは唯一オーバーテイクが可能な場所です。ホームストレートもそれなりの距離があるのでDRSの効果が出やすいですし、フェルスタッペンとルクレールもそのことをお互いに分かっていました。
ですが、ルクレールとしてはフェルスタッペンを前に出してしまうと、元のダウンフォース量がレッドブルは少ないのでストレートスピードで離されてしまいます。前回も言いましたが、フェラーリのマシンは回頭性が良いのでサウジアラビアではダウンフォースを付け気味にしていたので前半セクターが速い。セクター1はフェラーリが圧倒的に速く、セクター2は両者ほぼ互角、そしてセクター3ではレッドブルが速いというような両者のマシン特性でした。
マシンの狙っている場所やセットアップの考え方で得意/不得意なところが分かりやすかったので、見ている側としては面白い争いでした。フェラーリとレッドブルがそれぞれ考えている一番の強みを最大限に活かした戦いで、そこには目に見えない争いがあり、セクターごとにどれだけ追いついて、どれだけ離されるという計算で戦っていたのでミスができない。本当にフェルスタッペンとルクレールも高い集中力で戦っていたので、見ていて痺れました。
2台の接触もなかったですし、バトルのレベルの高さもそうですが、お互いにリスペクトしている相手だからこそできる争いでした。レース後のルクレールのコメントも相手を讃えていて非常にスポーツマンシップに溢れるものでした。ただ、まだ序盤戦なので良いですが、シーズン後半戦でこのようなトップ争いが繰り広げられた時はどうなるか分かりません(苦笑)。いずれにしても、今後もこのようなバトルがいろいろなところで見られると思うと、本当に今年のF1も、見る者を熱くさせてくれる最高のエンターテイメントで素晴らしいです。
今回、角田裕毅選手はトラブルで残念な形になりました。この開幕2戦、アルファタウリのトラブルが目っています。今回は連戦で時間がないので修復できなかった可能性はありますが、次戦は時間が空くのでファクトリーで原因を究明し、解決に向けてのマシンの扱い方や新しい部品を組み込むことはできると思います。次のオーストラリアGPまで多少時間があるので、そこに関しては対処してくるとは思います。
アルファタウリは、サウジアラビアGPでのピエール・ガスリーのレースを見ていても、中段勢の争いのなかでは今回のサーキットがマシンにそこまで合っていないと感じました。アルファタウリ向きのサーキットならば、今後はまたアルピーヌとアルファロメオに対して良い勝負ができるかと思いますが、アルファロメオのマシンが見ていて結構良い感じなので、どこかのサーキットで、良い意味で弾けそうなパフォーマンスをアルファロメオは見せてくれる予感もしています。

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<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
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