更新日: 2022.04.18 15:27
【中野信治のF1分析/第3戦】中低速で強いフェラーリと市街地で如実に表れたマシン特性。衰え見せないアロンソ
今回のタイヤの持ちの差は完全にサーキットの特性によるもので、アルバート・パーク・サーキットはストレートも短く、レッドブルが持ち味としているストレートスピードを活かすこともできません。そのあたりの、フェラーリとレッドブルのもともとのマシン差というのが今回の決勝では如実に現れてしまいました。
コーナーでタイヤが滑っている時間が長いということと、このコースはコーナリング時間が長いのでクルマの向きが変わる前にアクセルを踏まなければ加速を良くできません。ですので、レッドブルは早くクルマの向きを変えるために早めにアクセルを踏み、強引にフロントタイヤとリヤタイヤをいじめつつ加速していくイメージです。
対するフェラーリはブレーキをオフにしてスッと素早くフロントが入っていくので、向きが変わった状態でステアリングの舵角も少なくアクセルを踏み込むことができ、タイヤをまったくいじめずに済みます。レースになれば2台の違いが大きく出てくることは予測していましたし、今回のような中低速サーキットだと、今後も周回を重ねた時にはフェラーリとレッドブルである程度の差がついてしまいそうです。
そして中段勢では、今回はアルファタウリが苦戦を強いられていました。そういった意味ではクルマの方向性がレッドブルと似ていると思うので、このサーキットに関しては少しタイヤが苦しかったのだと思いますし、一発タイムは決して遅いものではないですが、アルピーヌなどと比べるとどうしても遅れを取っていました。おそらく、もともとのマシンの設計段階で狙っている部分がアルバート・パーク・サーキットには合っていないということでしょう。
角田裕毅(アルファタウリ)もスタートは良かったですが、その後はまったくペースを上げられませんでした。何かトラブルでもあるのかなとも思いましたが、コメントを聞くとトラブルというよりもクルマが決まっていなかったというものだったので、かなり苦しんでいました。
開幕から3戦を終えて、勢力図としてはシャルル・ルクレール(フェラーリ)が一歩抜けた格好になりましたが、サーキットによっては今回のような勢力図が繰り返される可能性があります。ただ、レッドブルなどは次戦のエミリア・ロマーニャGPからアップデートを投入してくると思われます。2022年のように大きくレギュレーションが変化したシーズンは、他チームのクルマの特性や開発のアプローチを見て、序々にいい部分を真似してくるチームが出てきます。そして、強いチームほどすぐに対応をしてきます。
マシン開発は情報戦争なので、ライバルをチェックするスパイのような担当がいるならば、そういった人たちが情報を取りに行き、ファクトリーでその部品を模したパーツを作り、風洞やシミュレーションを行って本戦に持ってくるようなことをしてくると思います。今年はそれが当たってしまえば、本当にいきなりマシンが速くなる可能性があるシーズンです。
面白いのは、2022年は大きくレギュレーションが変わってマシンのスイートスポットが狭くなっている分、何かを見つけてそのスイートスポットに入った瞬間に大きな効果が得られることです。結構な差が存在したチームでも一気に差を縮めてくる可能性もあるので、まだまだ勢力図は分からないということも事実だと思います。
遅れを取っているメルセデスが次のアップデートでどんなものを投入してくるかにも注目です。ここまでの3戦はスケジュールも厳しかったのでそこまでアップデートをしてきませんでしたが、次戦には最初の大きなアップデートを投入してくるはずです。そこで何ができるかが今後を占ううえで重要な一戦になりそうな気がします。
オーストラリアGPではルイス・ハミルトン(メルセデス)もさすがに苛立ちを見せ始め、レース終盤にチームに「君たちのお陰で、僕は本当に厳しい状況に追い込まれたんだよ」という内容の無線からも、イライラがピークなのは伝わってきました。これはチームのせいなどは関係なく、チームメイトのジョージ・ラッセルが前を走っていることが原因でイライラを募らせているような気もするので、今後のメルセデス内チーム対決も激しさを増してくるような予感がします。
チーム内バトルは、フェラーリもルクレール対カルロス・サインツの熱い戦いもあります。我々見ている側としてはやはり、人間対人間のバトルはかなり惹きつけられるものがありますよね。F1は過去にもアイルトン・セナ対アラン・プロストの“セナプロ対決”もありましたが、そういったところも人間模様も目が離せないポイントですね。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24