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投稿日: 2022.04.21 17:55
更新日: 2022.04.21 19:35

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第4回】順位を入れ替えた直後に「ありがとう」の無線。ケビンとミックの信頼関係は前進


F1 | 【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第4回】順位を入れ替えた直後に「ありがとう」の無線。ケビンとミックの信頼関係は前進

 予選を失敗したのと、一発のタイムよりレースペースの方がいいというのがわかっていたので、ミックとケビンの戦略を分けてスタートすることにしました。アルバートパークは抜きづらいコースですし、予選で実力を発揮できていない時は他と違うことしないと前のクルマを抜けないので、15番グリッドのミックがミディアムタイヤ、16番グリッドのケビンはハードタイヤでスタートすることにしました。

 スタートタイヤを分ける際は、基本的にはグリッドが前のドライバーが柔らかいタイヤ、後ろのドライバーが固いタイヤになります。というのも前のドライバーが固いタイヤを履いてしまうと、レーススタートで柔らかいタイヤを履いている後ろのドライバーに抜かれてしまう可能性が増えてしまうからです。ただ今回は10周を過ぎたらハードの方がペースが速いというのをわかっていたので、ミックには「もしケビンが迫ってきたら争わずに抜かせるように。そして、もしそれが唯一の理由でレース終盤にケビンがミックの前にいた場合は、再度順位を入れ替える」と伝えました。

ミック・シューマッハー&ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第3戦オーストラリアGP ミック・シューマッハー&ケビン・マグヌッセン(ハース)

 するとレース前半は、ケビンが周冠宇(アルファロメオ)を抜いてミックの後ろで詰まっていた時に、こちらから何かを言う前にミックはケビンにポジションを譲りました。そしてレース終盤、ケビンのタイヤがダメになりミックが迫ってくると、ケビンもすぐにミックを先に行かせました。もしケビンがチームのことを考えずに自分がミックの前でフィニッシュすることが大事だと思っていたら順位を入れ替えるなんてしないはずです。でもケビンは、自分はタイヤがダメになってきて厳しいけれど、ミックはタイヤも問題ないし、ペナルティを受けたランス・ストロール(アストンマーティン)の5秒以内に入れるかもしれない、とチームにとっての最適な状況を考えてミックを前に出したわけです。

 ケビンは自分かミックのどちらかが入賞できればいいという感じでしたし、自分がどうしてこの位置を走っているのかを理解していて、本来の実力じゃないというのもわかっていました。順位を入れ替えた後、ミックも「ありがとう」と無線で言っていました。ふたりの信頼関係というのもこのレースで一歩前に進んだと思います。

 ケビンとミックはそれぞれキャリアのどのあたりにいるのかというのも違うし、頻繁にコミュニケーションを取っているというわけでもないですが、ケビンはミックにとってのいいお手本となる存在です。ミックはまだ若くて学ぶことも多いし、自信がなかったりもしますが、ケビンがミックを目の敵にして戦うとかそういうこともないので、ミックは自分のことだけに集中できる環境にあります。

 ちなみにFP3ではミックの方がケビンよりもいい状況で、ケビンは「自分のクルマの感触がよくないから、ミックのクルマと比較して、いい部分があったら取り入れよう」と言って実際に予選の前にミックのクルマのセットアップの一部を取り入れました。チームとしてうまく機能していますよね。チーム全体が明るいし、全員がやらないといけないことに集中できる環境になっていると思います。

ケビン・マグヌッセン&ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第3戦オーストラリアGP ケビン・マグヌッセン&ミック・シューマッハー(ハース)

 新車で序盤の3戦を終えて、ここまで性格の違う3つのサーキットでレースをしてきましたが、やはりポーパシング(クルマの縦揺れ)の影響は大きいです。このクルマでは油圧のサスペンションがなくなって自由にリヤの車高をコントロールできなくなり、メカニカル面でやらないといけないなどの制約はたくさんありますが、それはみんな同じなので言い訳にはなりません。

 オンボード映像を見ると、ハースやフェラーリ、メルセデスはかなりクルマが揺れているのがわかると思います。反対にマクラーレンやアルピーヌは揺れていないですよね。おもしろいのはあれだけ揺れていても速いのがフェラーリで、苦労しているのがメルセデスです。各チームによって方向性も違いますし、まだまだ対応策が完全に理解されていない状態です。あまりにも揺れているとブレーキングに影響が出るし、今回で言えば高速のターン9〜10でミスをしている人も多かった。揺れのせいでクルマの挙動が不安定になり、性能に影響が出ます。ハースとしては、妥協点を探しているところです。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第3戦オーストラリアGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

 信頼性に関しても、ミックのサウジアラビアGP欠場を除いてすべて完走できているものの、まだ安心できないです。メルボルンでは水曜日の夜にミックのクルマ(新車)を組み上げるためにカーフューを破って深夜3時まで作業をしましたが、実はこの時にケビンのクルマにも漏れが見つかったのでその修復も行いました。これがもしレースで発生していたらリタイアなので、僕のなかではまだ全然満足できるレベルまできていません。

 部品の状況もギリギリなので、もっと余裕があれば3時まで作業することもなかったです。きちんとした状態でサーキットにマシンが届かなければトラックサイドで時間を食うことになり、そうなるとピットストップ練習や空力のチェックなど何かが犠牲になり、そういうものがすべてクルマの性能に繋がります。仕事量が増えれば個人のパフォーマンスにも影響が出るので、そういうところも底上げしないといけないなと実感しています。


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