更新日: 2022.06.06 19:27
【中野信治のF1分析/第7戦】裏目に出た王道戦略。契約延長のペレスの活躍と来季の昇格が消えた角田裕毅に求めるもの
サインツはタイヤマネジメントが難しかったと思いますが最後まで走って行けるかなと思ったのですが、ペレスが予想以上にペースが良かった。それにサインツはピットアウトの時に少し前のマシンに引っ掛かってしまったんですよね。そこで2〜3秒ロスしたのが痛かったですね。もしそれがなかったら逆転してトップになっていたかもしれません。今回、作戦としてはサインツが一番良かったかなと思いますが、一番走りが良かったのは序盤にインターミディエイトで素晴らしい走りを見せたペレスでした。そのインターミディエイトでのいい走りがあったからこそ、次のピットで前で復帰できた。
ドライバー的にはフェルスタッペンもルクレールも、チームの戦略にすごく不満はあると思いますが、チームとしてはチャンピオンを取りに行くことを考えると、やはり王道で攻めなければいけない状況があったと思うので、今回は正攻法の作戦以外は取りづらかったと思います。ただ、それが逆にペレスとサインツにとっては大きなチャンスになって、ふたりはそのチャンスをうまく活かした形になりました。リスクはゼロではないですが、やはりモナコでは早め早めの戦略でトラックポジションを優先させるという戦い方が重要ですね。
角田裕毅も2年目のモナコいうことで、1年目のモナコとは印象も違ったと思うんですけども、決勝ではなかなか上手く乗り切れませんでした。予選のQ1で左フロントをガードレールにちょっとヒットしてしまって、Q1は結果として通過はできたので良かったのですけど、ただ、そのQ1でちょっと流れが良くなくなったような印象でしたね。
決勝に関しては早めのピットインをしましたが、遅いクルマに引っかかってしまったというのもありますし、最後のスティントでもミディアムタイヤでの走行で飛び出していましたし、路面の乾きはじめのグリップの難しい路面で苦しんでる感ありましたね。
なにか決勝中にトラブルがあったのかもしれないですけど、もしトラブルがなかったのなら、こんなに乱れるというか、決勝でここまでうまくまとめられてないのは今年初めてかなというぐらい、今回のモナコはそれだけ難しいコンディションだったということになります。そういった意味ではこれだけ難しいコンディションの中で、いろんな状況を路面状況とかも鑑みながらレースを組み立てていくのはすごく難しいことなので、裕毅にとっても大きな学びがあったと思いますね。
そしてレース後の発表になりましたが、裕毅に関連するニュースとしてペレスが2024年までレッドブルとの契約を延長することが明らかになりました。そのニュースは裏を返せば、レッドブルのジュニアチームであるアルファタウリの角田裕毅にとって、2024年までトップチームであるレッドブルのシートはないということになります。このニュースを聞いて残念に思うファンの方も多いと思いますが、でもそこはもう仕方がないというか、ペレスが本当に数えればそれほど多くないであろうチャンスをモノにしたので、素直に彼は契約延長に値する活躍を見せたと思うんですよね。
やはり、レッドブルとしてはヘルムート(マルコ/レッドブル・モータースポーツアドバイザー)がやってほしい仕事をこなせるドライバーが欲しいわけですよね。ペレスはそのヘルムートのお眼鏡にかなったということですね。ペレスは去年の最終戦アブダビGPもそうですが、ナンバー2としての言葉正しいかわかりませんが、その仕事をきちんとこなして、フェルスタッペンとチームのサポートをしてきました。
今年もそのスタンスを続けて、前回のバルセロナでペレスは無線の指示でフェルスタッペンに順位を渡すという悔しい思いをしました。順位を譲らざるを得なかった状況ではありましたけど、無線で言われるのはやっぱりドライバーとしては全然ハッピーではないわけです。
でも、その中でもペレスはリズムを崩さずにきちんと走りきれるメンタルの強さ、そして速さを持っていますし、自分の好みのクルマに乗ると、それこそマックス同じぐらいのペースで走ることができる。それを今回のモナコでも証明したので、チームにとってはマックスにチャンピオンを獲らせて、チームとしてコンストラクターズを取りに行くということ考えると『ペレスほどのチームメイトはいないな』と思わされるようなパフォーマンスでしたよね。本当に今回のモナコのペレスは素晴らしかった。
一方、裕毅にとっては、そういう状況になってましたけども、今後のレースもやるべきことは変わらないですよね。とにかく自分のポジションを来年に向けて確保することが優先です。敵はガスリーだけに限定してるわけではないですけど、まずはチームメイトのガスリーに勝つということが裕毅の評価につながる。クルマがクルマがよければもっと上を目指せばいいのですけど、クルマが良くても悪くても関係なく、とにかくガスリーに対して自分がどこにいるかということが来年のシートに直接、影響を及ぼすことになります。そのなかで僕はこれまで前半戦のここまでやってきたことと同じアプローチでいいと思います。
もう本人もあまりペレスのことは関係ないというか、気にしないと思いますし、F1で上のシート、トップチームのシートを奪おうと思うと、やっぱり相当なすごい活躍をしないとそれは難しいことだと思います。裕毅もガスリーにちょっと勝つというのではなくて、やはりガスリーを大幅に上回るぐらいのパフォーマンス見せないと、おそらくレッドブルにはいけないと思うんですね。
なぜならレッドブルは、一度ガスリーをレッドブルに昇格させたあとに力がないと判断して降格させたわけです。その降格させたドライバーに簡単に勝てるようにならないと、上には上げられないということもおそらくあると思います。裕毅としてはまずは来年のシートを確実にして、そこから実力を上げていって、そして本当の意味での評価が得られるようになれば、2024年以降にチャンスがあるかもしれません。とにかくポジティブにいろいろな出来事を捉えて、自分の仕事に集中してほしいですね。
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<<プロフィール>>
中野信治(なかのしんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
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