実際、イギリスGPで、フェラーリは高いポテンシャルを示した。特にルクレールには、フロントウイングが壊れた状態でサインツに追いついてトップに立つ速さがあったのだ。フェルスタッペンがフロアにダメージを負って後退していただけに、フェラーリにとっては理想的な展開になるはずだった。ところが彼らはまたもチャンスを逃した。
終盤にセーフティカーが出動した際に、またもや戦略に足を引っ張られる形でルクレールはトップから4番手に後退。サインツが初優勝を飾ったのはチームにとって良いことではあったが、ルクレールはフェルスタッペンとのギャップを19点縮められたはずが、結局6点しか近づけなかった。
レース後、明らかに動揺した様子のルクレールに対し、ビノット代表が人差し指を立てて話をする映像が流れ、ビノットを批判する声も上がったが、あの時彼は、ルクレールに対して、「そんなにがっかりするな」と励ましていたのだという。

久々に勝利を収めたにもかかわらず、戦略が批判され、チャンスを逃したと責められたことに、ビノットは驚き、不満を感じた。だが、チームの全体的な結果としてベストでなかったことは明らかだ。オーストリアまでに態勢を万全にしたいと思ったビノットは、連戦の合間にモナコを訪れ、ルクレールと食事をしながら話し合う機会を持ったという。
それは非常に賢明な行動だった。フェラーリはふたりのドライバーを公平に扱っているが、リードドライバーは間違いなくルクレールだ。ルクレールの方がチャンピオンシップで上位につけ、コース上の速さにおいても勝っている。チームを代表する存在であるルクレールが、万が一、公の場でチームを批判し始めるようなことになれば、極めて厄介な事態になる。チーム代表として、何としてもそれは避けたかったはずだ。

ビノットはモナコでのディナーの重要性を否定しているが、レッドブルリンクに現れたルクレールはポジティブなムードをまとっていた。そしてその姿勢がパフォーマンスにいい方向で影響したのかもしれない。オーストリアGPでルクレールは見事な勝利を挙げた。さらに、チームの仕事ぶりも賞賛に値する。彼らは日曜に大きなプレッシャーに耐えながら、戦略を見事に成功させた。フェラーリは必ずしも戦略をうまく実行することが得意なチームではないが、今回は非常にうまくやったと思う。
サインツがルクレールに続く2位に入るものと思われたが、エンジントラブルが発生して彼はリタイアしなければならなかった。1-2を達成していれば、ルクレールはフェルスタッペンとのギャップをさらに縮めることができたのでフェラーリにとっては悔しいトラブルだった。とはいえ、フェラーリは多くの面でシルバーストンより優れたパフォーマンスを発揮し、前戦から学習することもできたようなので、それはポジティブな要素だ。

ビノットは、フェラーリはいずれ劣勢から持ち直せると強く主張している。信頼性の問題さえ解決できれば、タイトル争いで優位に立てるとして、スタッフたちに高いモチベーションを維持させようとしているのだ。
「確かに懸念を抱いてはいるが、問題を修正するために、マラネロでは懸命な作業が続けられている」とビノットは言う。
「カルロスに起きたことを見れば、解決されていないことは明らかだ。しかし我々の新しいエレメントはうまく機能しており、非常に優れていることも分かっている。問題は近いうちに解決されるはずだ。できる限り早く解決を図りたい」
フェラーリは2連勝を挙げたものの、ポテンシャルをフルに発揮できたわけではない。悲願のタイトルを獲得するため、自分たちが課題をこなす必要があることをビノットは承知している。
