英国テレビ番組トップギアの企画で、2014年にフランスのポールリカールで乗りました。キミ・ライコネンが2012年のアブダビGPで勝った車両ですよね。誰が乗っても、それなりに走らせられるF1マシンだと感じました。
僕が現役当時のF1マシンというのは、エンジンが1000馬力もあるのにエンジンやシャシーの制御面はまだまだ技術的に未熟だった時代です。でかいウイングがあるだけで、よくもまぁアイツらそんなクルマに乗れるよなという時代でした。

ところがこのF1マシンは、「これは子供が乗っても同じラップタイムで走れるわ」というくらいに乗りやすいクルマでした。ピットガレージからの発進の際も、「オートローンチはオンにしてあるから、スロットルは踏まないでください」とエンジニアから指示されるわけです。クラッチをすーっと離すだけでOK。逆にスロットルを踏んだらエンストしてしまう。コースインしてようやくスロットルを踏んで、ようやく普通のクルマの操作を受けつけるという具合でした。やっぱりよくできたクルマでしたよ。
ステアリングは軽いし、切ったぶんだけクルマは曲がるし、なにしろ空力が自分の時代とはぜんぜん違いました。ここは行けないと思うコーナーでも、スロットルをオフにしてはだめ。もっとスロットルを踏めば、ダウンフォースの力で簡単に曲がれる。僕の知っているF1マシンじゃない。と言ってもそれは10年前のクルマだから、いまのF1マシンはもっと簡単なのでしょう。
もう10年以上前から、サルが乗っても、カバが乗っても、クマが乗っても、きちんと操作すれば同じラップタイムで走れる。大きなタマも必要無ければ、汗をかいて頑張る必要も無い。むしろ、クールに繊細にアクセル操作やブレーキ操作するだけで良い。ゲームと同じ感覚なのかも知れない。僕の知っている1995年までのF1マシンは、コクピットの中で汗をかいて働くというイメージで、ブレーキングもコーナリングも“えいやっ”という感じだったけれど、もはやそういう時代ではないのでしょう。
まあ、これでピレリF1タイヤの特性がハッキリとわかった(汗)・・・・ pic.twitter.com/ZHOeNnSIOu
— Taki Inoue (@takiinoue) May 29, 2014
■タトラ623R(番外編/レスキューカー)
F1マシンではありませんが、1995年F1ハンガリーGPで消火活動中に見たこともないレスキューカーに跳ね飛ばされました……(汗)。
記憶に残るという意味では、自分にとっても、世界のF1ファンにとっても、あれが一番インパクトあるできごとかもしれません。僕のもうひとつのF1デビューとも言えるでしょう。
それにしても、あれはなんなんですかね? いまの時代だったら完全に赤旗(レース中断)でしょう? こっちは身体の痛みに耐えているというのに、セーフティカー(SC)さえ入らず、レースはジャンジャンバリバリ継続していたのですから。
競技は継続したまま救急車が来て、自分はそれに乗せられてメディカルセンターに搬送されて……いまの時代からしたら信じられないですよね。それはともかく、僕はすぐにブダペスト市内の病院へメディカルヘリコプターで移送されると思っていました。
しかし、のちにF1レースディレクターとなるチャーリー・ホワイティングがメディカルセンターへ顔を出して、「ごめんタキ。いまメディカルヘリコプターを離陸させるわけにはいかない。離陸させるとなると、それはレース赤旗中断を意味する。だからレース終了まで待ってほしい」と言うのですよ!
「いや、痛いんだけど!」と彼に虚しい抵抗を返したことを憶えています。

definitely this is one of the best entertainment during the GP race.
But Safety car didn't deploy at all.
Basically they didn't care at all. pic.twitter.com/UfBBzu4uYV— Taki Inoue (@takiinoue) September 12, 2021
(了)