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投稿日: 2022.08.12 12:27
更新日: 2022.08.12 13:17

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第10回後編】アップグレード投入も、期待通りの効果を得られず。中速での遅さが痛手に


F1 | 【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第10回後編】アップグレード投入も、期待通りの効果を得られず。中速での遅さが痛手に

 この週末が始まる前からチームに伝えていたことですが、ハンガロリンクでは金曜に路面温度が50度以上まで上がり、日曜には30度くらいまで下がると予想されていました。つまり最も難しいのは、暑い金曜に採ったデータを路面温度が大きく下がる日曜日にどう繋げていくかということです。金曜日に路面温度55度の状況で走ってもハードタイヤは遅かったので、もっと温度が下がると予想される日曜はさらに機能しないはずですし、実際は予想以上に寒くて気温は20度に届かず、路面も20度台だったので、ハードが機能するかというと厳しい状況でした。

 ハードがどれくらい遅いか、デグラデーションはどれくらいなのかで1ストップか2ストップかを決めますが、実際にハードがどうかというのは誰かが走らないとわからないので、ミディアムタイヤでのスタートは躊躇しませんでした。ソフトタイヤでスタートすると、その時点で2ストップにするしかないし、そのチームはみんな事前に2ストップでいくと決めているはず。ウチはそれを決めきれていなかったので、1ストップの可能性も残したかったんです。

 ケビンはスタートで10番手までポジションを上げましたが、ターン1出口でダニエル・リカルド(マクラーレン)と接触し、フロントウイングのエンドプレートにダメージを負いました。これでまたカナダに引き続きオレンジボール旗を出されたのですが、実はイギリスGPで『レースコントロールがオレンジボールを出す前に、チームにコンタクトをとって技術的フィードバックを聞く』という同意がとれていたんです。それにもかかわらずレースコントロールは僕らに何も言わずにオレンジボールを出したので、6周目にはケビンをピットに入れざるを得ませんでした。カナダGPの時と違ってダメージも悪化しておらず、部品が壊れて落ちる可能性も少なかったので危険という認識は我々にはなかったんですけどね。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第13戦ハンガリーGP 接触によりフロントウイングにダメージを負ったケビン・マグヌッセン(ハース)

 レース開始前のベースの戦略は1ストップだったので、ケビンに第2スティントでハードを履かせるつもりでいました。しかし、この時点(6周目)で誰もハードで走っていなかったので、ハードで行くのはかなりのギャンブルになります。ですから、2ストップにはっきりと切り替えて、2セット目のミディアムを履かせようと指示を変えました。これはガレージ内にライトがあって、次に使うタイヤをメカニックに知らせる仕組みになっています。しかし、それが今回はちょっとわかりづらくて、メカニックはライトが違うタイヤに変わったことに気付かずに、ハードを持ってガレージから出て行ってしまいました。これでケビンは第2スティントを予定外のハードで走ることになったのです。

 ハードタイヤは懸念した通り温まりが遅く、4〜5周目あたりにやっといいタイムが出るようになりました。しかし、その後ピットアウトしてきた角田裕毅やピエール・ガスリー(ともにアルファタウリ)とやりあってタイムが落ちた後は、タイムが戻ってきませんでした。そこから徐々にハードがダメになり、なんとかミディアムで最後まで走り切れる残り34周のところまで引っ張って再びミディアムに交換しました。

 さらに失敗だったのは、ケビンのハードのタイムを見て、ハードが非常に使いにくいタイヤだとわかったにもかかわらず、ミックに第2スティントでハードを履かせてしまったことです。ハードでなんとかいいタイムで走るためには、フリーエアーで自由にタイヤを使って走れないとダメです。他車とバトルしたり、青旗でタイヤ温度が落ちるとガクッとタイムに影響してきて、そこからまたタイムを戻すのがほぼ不可能でした。ミックには2スティント目をミディアムで30周引っ張って、残り20周をソフトで走るという選択もありました。結果的に、そうした方が確実によかったと思います。ガレージ内のオペレーションのミスでケビンにハードを装着したのがひとつのミスで、そこからの判断を間違えたなというのが反省点です。

ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第13戦ハンガリーGP ミック・シューマッハー(ハース)

 レース中にライバルの無線を聞いていて、アルファロメオが1ストップで走るというのは明らかでした。アルピーヌもそうしていましたし、1ストップで行ける可能性があるという考え方自体は間違っていなかったです。しかしアルファロメオは、周冠宇が途中までうまくいっていたのに青旗などで一気にタイヤがダメになり、ボッタスも同様でした。アルピーヌが走り切ることができたのは、レース中盤に2ストップのアストンマーティンとのバトルはあったものの、それ以外はふたりともレースのほとんどを青旗もなくフリーエアーで走っていたからです。クルマの特性にもよりますが、アルピーヌはタイヤにうまく熱を入れられたのでしょうね。彼らは唯一1ストップ戦略を活かしてダブル入賞を果たしました。

■次のページへ:残り9戦で17ポイント差。後半戦はアルファロメオを逆転し、選手権6位を狙う


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